【路地裏の百物語】浮世の沙汰は諸行無常【派生作品】 (ページ18)

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「なんかええの見付かりました？達也はん」
「そうだな……」

　紙を束ねる音と何処かに少し重めのものを置く音が響く中、地蔵は達也に尋ねた。
　個人的に近所のＬさんからの依頼というものに若干興味がある地蔵。御仏(みほとけ)ゆえに猫は悪、という考えがあるためか。それかただの猫嫌いか。
　どちらにせよ、あとで沢子に相談だと思っていれば「きゃっ……」という短い悲鳴。

「！」

　二人して顔を上げれば沢子が足元の紙に足を滑らせたのか、若干前のめりになりながら宙に浮いていた。
　咄嗟に先に動いたのはどちらからか。
　まずは地蔵も達也も腰を浮かし、沢子の元へと向かおうと立ち上がる。
　次に地蔵は一歩足を踏み出したのだ。が、沢子同様足元の紙に足を取られて勢い良く前のめりになり、べちゃりと紙の海にスライディングしながらのダイブを決め込んで。
　そのあとに背中に軽く何かが乗った。おそらく沢子が落とした紙束だろう。

「はわわわ、たたり地蔵さんごめんなさいッ。大丈夫ですか？」
「地蔵、大丈夫か？」
「も、問題ありまへんで、達也はんナイスでっせ……」

　構図としては以下となる。
　まず、また倒れそうになった沢子をギリギリで腹に腕を回したことで転倒を防いだ達也。その下で紙に埋もれて倒れ伏している地蔵、となっている。
　なお、紙束の中から震える右手で親指を上げてサムズアップをする地蔵は、程なくして達也により回収をされていた。

閑話休題。

　無事に、ではないが、粗方報告書をまとめることに成功した沢子は達也の依頼を聞き、資料等を渡していた。
　その間地蔵は自身の俊敏の無さに対して若干落ち込んでいる。石ゆえに足が速いはずもない。だが、同じ石でできた像だというのに学校にある薪を背負った彼は足が速いと聞く。いったい全体何が違うというのか。

「じゃあな地蔵、俺は依頼をこなしてくる」
「いってらっしゃい達也はん。またこうしてお会いしましょ」

　ぽんぽん、と肩を軽く叩く達也に対してにへらと笑って見送る。封筒片手に去っていくその後ろ姿は地蔵が言うところのしゅっとしている、に該当するだろう。
　実際地蔵も達也の後ろ姿を見てしゅっとしていると呟いていたのだ。

「たたり地蔵さんは何か依頼を受けますか？」

　沢子の右手には達也より返却された端末が握られていた。
　彼女の問いに対して一考した地蔵はそれならと口を開いて──。