【路地裏の百物語】浮世の沙汰は諸行無常【派生作品】 (ページ40)

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　地蔵もこの二週間の間、二回ほどタローのタックルからの涎のプレゼントを頂戴しているため他人事ではないのだ。
　白いワンピ姿のお嬢様系統の沢子に、ゴールデンレトリーバーのタローの組み合わせ。決して絵面的には悪くないのだが、いかせんタローの行動がいろいろとアウト。絶対に沢子のワンピの裾から中に顔を突っ込んでいるに違いない。いろいろとけしからん、もっとやれ。少し余談が過ぎたゆえ、話に戻ろう。

「いつもいつもタックルされて押し負けてしまいますので、そろそろわたくしもラグビーかアメリカンフットボールでも練習してどっしりと構えた方がいいかと思いまして」
「え……自分、それマジで考えてるんです？」
「もちろん冗談ですよ」

　ぼぼぼと、独特の笑い声を上げる沢子に対して地蔵は思う。あれは絶対半分本気だった、と。
　互いにタローはどう、川田はどう、と共通の知り合いの話をしていれば「できました」という絲の声に二人とも会話を止めて絲の方を向いた。
　テーブルの上にある鍋敷きに冷やした鍋を持ってきて置いた絲は、二人の前に置いてある深皿を取ると鍋の中身のヴィシソワーズをお玉で掬って盛り付けていく。２杯半程いれた深皿に見栄えのため緑を、本来はバジルやハーブ等がいいのだが買い忘れのため代わりに細かく刻んだネギを少し添えて、完成。

「どうぞ……召しあがって、ください」
「わぁ、美味しそうですね、たたり地蔵さん」
「ほんま、うまそうですわ」

　二人ともスプーンを持って、一口。

「……！」
「!!」

　口に含んだ瞬間に目を剥く二人。その反応にまさか美味しくなかったのかと感じた絲は、申し訳なさそうに目尻も眉尻も下げて二人に問おうとしたところ地蔵が叫んだ。

「あ、味の産業革命やー!!」

　目をキラキラとさせて地蔵は語る。

「しっとりしてて口どけも最高や。味もじゃがいもとたまねぎのコントラストが抜群にええ」
「たたり地蔵さんの仰っていると通り、とても美味しいですよ絲さん」

　美味しいものは人を笑顔にする。それはいつの時代も、どの世界も共通。地蔵も沢子も、絲が作ったヴィシソワーズに頬を緩ませて美味しそうに頬張っている。
　目を瞬いた絲だったのだが、直ぐに安心したかのように、それでいて少しだけ嬉しそうに顔を綻ばせて笑みを浮かべていた。

「……べっぴんさんや」

　そしてそれを見た地蔵も、いつもの通りの一人言を呟いたということは考えずともお分かりいただけただろう。