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 まずはと地蔵はボロ家からそこまで離れていないスーパーマーケットへ絲を連れていく。
 到着スーパーマーケットにどういう訳かピリピリした空気が漂っていることに、絲は漠然とながら感じていた。

「お地蔵さん。いと、ここあまりいたくない……」
「絲はんにはこの戦前の空気が苦手なんですね」

 既に歴戦の猛者の表情をしていた地蔵。だがしかし、絲の弱々しい声にきょとりとしたあと周囲を見渡した。
 周囲は殺気だった主婦や主夫という猛者が所狭しとスーパー内にいる。
 見るからに人混みとは無縁の絲には馴染み無い空気だったのかもしれない。絲は"きらさぎ駅"の怪異ゆえ、多少は人には慣れているがここまでの人はなかったのだろう。
 先週地蔵が再会した"猿夢"の怪異である猿渡(さるわたり)夢羽(むう)も、次々と満員電車になるくらい彼のテリトリー内に流れ込んできた人々によってある種の人に対する恐怖を抱いているのだから。

「ん。わかりました。絲はんはお菓子売場で待っておいてください。自分一人でタイムセールに挑みますわ」
「でも、お地蔵さん……」
「大丈夫でっせ。自分、結構タイムセールには地元のおばちゃんおっちゃん連中と研鑽(けんさん)し合ってる仲なんで」

 絲をお菓子売りコーナーまで先導した地蔵は、店員のタイムセール開始の声に「ほなっ」と笑顔を絲に見せたのち、喰い尽くそうとする主婦連中や主夫連中に果敢にも挑んでいったのだ。
 押し合いに奪い合い。正しく現代に甦った合戦と言ってもいいだろう。どれだけ目当てのものを手にすることが叶うか。家計を支えるため、縁の下の力持ち達は少しでもコストの安いものを買い求める。
 そのような中、地蔵は小さい身体を利用して奪い合う猛者達の足元を四つん這いで進んで無理矢理最前列へと躍り出る。
 ひょっこりと現れた白く丸いものに、気付いた猛者達は一瞬目を白黒とさせてしまった。それが隙を作った。

「とったどー!」

 まるで敵将討ち取ったりが如く。地蔵は目当てのお一人様2つまでのじゃがいもとたまねぎをそれぞれ2つずつ、両手を高々に上げて持っていた。
 突然現れた子供に唖然とする者達が多数。予想もしなかったに違いない。子供が敵とは。

「皆はん、はよせんとなくなりますで?」

 地蔵の声にはっとしたのだろう。慌てて自身の目当ての品々を確保すべく、主婦や主婦の皆様は切磋琢磨とタイムセールに挑み続けたのであった。

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作者名:翔べないペンギン | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Information/  
作成日時:2021年7月21日 17時

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