空っぽを埋めるモノ５【RKRN】

記憶220 ページ31

それからの私の生活に楽しいだけの日は無かった。



一日に何時間も手すりを使って歩く練習をした。それなのに一向に回復の兆しがなくて何度も何度も諦めそうになった。一人で泣いたことも何度もあった。



それでも周りで支えてくれた人のお陰で私は辛い時期も乗り越えることが出来たのだと思う。





何より不思議なのはあの紫の花。あの花を見ると何故か絶対に諦めてはいけないと気持ちが奮い立ったのだ。



悩んだ末に学校にも行った。友人たちと一緒に卒業するために留年はしたくなかった。私のわがままで友人には大変な思いをさせてしまったが、車椅子生活はついこの間卒業出来た。歩けるようになったのは少し前からだが、歩き方がぎこちなかった為だ。



季節はもう私が目を覚ましてから一年が過ぎようとしていた。


＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿


今日は土曜日。空は快晴。とびきりのお出かけ日和だ。


神様は私の今までの不運を哀れんで今日を用意してくれたのかもしれない。




自由になって初めての外出、心は既に浮き足立っていた。



一つだけ文句を言うなら、友人たちはいつの間にか彼氏を作っていて今日の外出が私一人だというところだ。




(まあ、別にいいんだけどさ)




強がりではない。いや、少し強がりも含まれているかもしれないけれど。


お祝いだなんだと気を遣われるのは逆に疲れるし、車椅子生活は常に誰かしらが傍らにいた。





(今日は一人でゆっくりしよう)





カフェにでも向かおうか。一人でカフェにいる人なんてお洒落で大人っぽくて仕事が出来る人と相場が決まっているのだ。小説でも持ってくればそれっぽく見えたかもしれないが今から戻るのも面倒だし……一昔前だが携帯小説で代用を……。




(なんだか急に子どもっぽくなる)



SNSに取り憑かれた現代っ子がぼっちで休日を潰してるだけに見えそうだ。



ふりだしに戻されてしまった。







___ふと甘い香りが鼻腔を刺激して、匂いの方向を見るとそこには花屋が。




そういえばあの紫の花、一輪だけでしかも萎びた状態で鞄に入っていたあの花の名前はなんなんだろう。



とっくに枯れてしまって捨てたのだが、捨てる時は随分胸が苦しかったのを今でも覚えている。








私は引き寄せられるようにその店へと入った。

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