空っぽを埋めるモノ５【RKRN】

記憶205 ページ16

(こういう時に限って、会えなかったりするんだよな)




今日、六年は組は実習らしく午後まで帰ってこないと山本さんに聞いた。昨日立花さんも実習に行ったと言っていたので、組ごとに日を分けて実習に行っているのだろう。





｢はあ……｣





｢どうしたの？ Aちゃん。具合悪い？｣





私のため息に横から覗き込むようにして心配してくれる小松田さん。





｢いえ、上手くいかないなぁって｣




何か思い当たる節があるのか、小松田さんはそれを聞くと、あ！ と口を大きく開けた。




｢もしかしてAちゃん、何か失敗しちゃったの？ 珍しいね。……僕に出来るのは一緒に吉野先生に謝る事くらいだけど……｣






吉野先生怒ると怖いからなあ、と勘違いしたまま小松田さんの中で話が展開されていく。そうでは無いと誤解を解きたいのに、一人葛藤している小松田さんは私に喋る隙を与えない。






｢……よし！ 一緒に謝ってあげる。Aちゃん仕事完璧で、いつも僕のこと助けてくれてるし。困ったときはお互い様！｣






へらりと笑って、小松田さんは一緒に怒られようと言ってくれた。





｢お気持ちは嬉しいんですが、別に怒られる予定はないですよ？｣





｢あれ？ でも失敗したって……｣






そんなこと言ってない。




小松田さんはどこまでが自分の作り出した話なのか分からなくなっているようだった。









(怒られると言えば)






｢今のこの状況こそ、怒られそうですけど｣




小松田さんは首を傾げた。……ほうきを持って。



かくいう私も小松田さんと同じようにほうきを持っているのだが、察しのいい人ならこれがものすごく非効率的なことだと分かるだろう。





｢同じ場所を二人で掃除しても意味ないと思うのですが｣



小松田さんはぐわっとものすごい剣幕で話し始めた。




｢仕方ないじゃない！ 吉野先生に『小松田くんは少しAさんを見習った方がいいんじゃないですか？』なんて言われたんだから！｣





僕の方が事務員歴先輩なのに、と小松田さんは頬を膨らませて不機嫌そうに呟いた。




小松田さんはミスが多いとよく注意されているが、掃除に関してまで注意されているのはさすがに見たことがない。





(事務作業の事にだけ言ったんだと思うけど)





片方は言葉足らずだし、片方は拡大解釈するしで変なすれ違いをしている。傍から見ていると二人は良いコンビなのだが。

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