空っぽを埋めるモノ５【RKRN】

記憶218 ページ29

｢……｣


白い天井、清潔感のあるカーテン。一定のリズムで電子音を刻んでいる横の機械は多分だけど私の心拍数を示しているのだと思った。




(病院……？)




フラッシュバックしたのは通学途中の道で自分に突っ込んで来る車の映像。うつ伏せに倒れた私の視界に広がったのは次第に道路を侵食していく赤い液体。頭が熱くて、痛くて、その液体が自分から出ている事に気付いた。




(死んだと思った)



私はどれくらい寝ていたのだろうか。分からないけれど誰か呼んだ方がいいのではと判断した私は体を起こしてナースコールを押そうとした。





___でも、出来なかった。




起き上がる為に下半身に力を入れたのに、力が入っている感覚がしなかった。自分の体ではなくなってしまったかのように自由がきかない。




(やっぱり駄目か)





……やっぱり？




どうしてそんなことを思ったのか。こんなことになるなんて少しも思っていなかったのだから、"やっぱり"なんてどう考えてもおかしい。



でも、心のどこかでこうなる事が分かっていたような気がする。






(……何だか長い夢を見ていた気がする)




全く思い出せない夢の中で、私はこのことを誰かに教えて貰ったのかもしれない……なんて、夢見がちな乙女みたいな思考をしてみる。



今の私にできるのは体を転がして仰向けからうつ伏せになったり横向きになったりするだけ。





うつ伏せになるとギリギリナースコールに手が届いて、私はそれを押して看護師さんを呼ぶことに成功した。



慌てた様子の看護師さんの話によると私は約三週間ぶりに目を覚ましたらしく、その後呼ばれた私の担当医師という先生からいくつか問診を受けた。




それが終わると、私の友人が取ってくれているという授業のノートが後ろに置いてあると看護師さんが教えてくれた。体を起こすのを手伝ってもらい、それを確認するとノートの隣には私が使っていた鞄も置かれていた。




こんな時まで勉強しろということか、と現実の厳しさに嘆息しそうになりながらも我慢して鞄を足の上に乗っけた。





(……？)





ファスナーを開けて一番最初に私の目に飛び込んできたのは紫色の萎れた花だった。




萎びてはいるが枯れてはいないので比較的新しいものなのだと推測される。




(酷い悪戯。生花を手入れもせずに鞄に入れとくなんて)



犯人を見つけたらきつく言ってやろうと思った。

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