蓼食ウ虫モ好キ好キ*KN*3 (ページ17)

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「ホントにいいの？」

「うん、いいの。」

心配そうにユミが耳打ちする。
まだ間に合うよ！引き返すなら今！携帯ショップではまず聴かない言葉ばかりだ。

「お待たせしました。ご希望の商品でお間違いないですか？」

「はい。」

「では、手続きに移らせていただきます。」

閉店間際なのに、店員さんは快く引き受けてくれた。そうじゃなかったら、決心が揺らいでたかもしれない。

数年でも全く別物みたいに進化したスマホに慣れるのは、時間がかかりそう。

・

・

「ねぇ、A。確認なんだけど。」

私の新しい連絡先を登録し終えたユミがソファーから下りてきて、私の隣に座る。
何やら、怪訝な顔。

「バカ男とやり直したいんだよね？」

「そうだよ？さっき言ったじゃん。」

「ならどうして？番号変えたの？連絡つかないじゃない。」

「私からは連絡がつくから、それでいいの。」

そりゃそうか。普通ならすぐに連絡をとるもんね。
でもユミが言ってたじゃない？私たちは普通じゃなかったって。だから、普通に気持ちを伝えるだけじゃダメな気がするの。

所々色落ちしたスマホを引き出しにしまって。
真新しいスマホの電源をいれた。
まだ初期設定のままの、真っ青な画面に触れて。
今すぐ触れたいその名前をしばらく眺める。

『これでいい』

そう言い聞かせるようにスマホをバッグにしまって、アパートを出た。
何日空けるかわからないから、一番大きなスーツケースに荷物を詰めた。旅行というよりは、夜逃げみたいだ。

「ホントにいいのね？」

タクシーを待つ間、私のスーツケースに寄りかかりながらユミに聞かれた。

私の気持ちは変わらない。

「ユミにしてはしつこいね(笑)」

「あのねぇ！私は心配して、」

「来た来た！乗るよー！」

呆れた顔をしてるユミを無視して、タクシーに乗り込む。行き先を告げて、走り出した車窓。
遠ざかる我が家にまた戻るときは、この行動が間違いじゃなかったって思えてるはずだって言い聞かせた。