蓼食ウ虫モ好キ好キ*KN*3 (ページ13)

今日:3 hit、昨日:2 hit、合計:39,811 hit

＊103＊ページ13

side 潤

とんでもないスケジュールを、予定よりも早くこなした社長と。
社長室で300円の牛丼を食べた。

朝淹れた、もう美味しくないコーヒーを飲みながら。珍しくタバコ片手に、社長が話し始めた。

Aさんとの出会い。
続いていた、二人の関係。
俺には理解し難いことだったけど、心とは違う繋がりが二人を離そうとしないのか、離れられないのか・・二人が離れてはいけない理由が今までの二人の関係から結びついてるのでは？と感じた。

「潤くんが思ってる関係じゃなかったでしょ？」

俺が何も答えられないのがわかってたみたいに、社長は変わらず穏やかなまま。少し前まで疲れきってたとは思えないほど、落ち着いてる。

「せっかく断ち切ったのにさ、修復していい関係には思えないっしょ？知った上でまだアイツを追いかけろって言える？」

会社のこと、社長という立場を考えたら。
やっぱり諦めましょうっていうことが正解なんだろう。でも・・

「言います。言わせてください。」

世間の冷たい視線に晒されても、社長にはAさんが必要なんだ。批判されてもそれだけはずっと変わらない答えなんだ。

「社長のためなら、どんな悪者にだってなります。お願いします、Aさんを離さないでください。」

人のために、頭を下げることが多い仕事ではある。その場面に何度も出くわしたけど、こんなに切に願いながら頭を下げたのは初めてだ。ましてや、仕える人のプライベートに、なんて。

「社長にはAさんが必要なんです！」

ため息のように吐き出された紫煙が、鼻に触れる。同時に聞こえてきたクスクスと笑う声。そっと顔を上げたら、にっこり微笑んだ社長と目が合った。

「俺の秘書じゃなかったら、きっとクビだね(笑)」

タバコを灰皿に押し付けながらもう片方の手で俺に何かを差し出す。見覚えのある、桜色の封筒とそこに書かれた見慣れた名前。

「これは・・？」

「Aより先に、この人んとこ行く。じゃなきゃ同じことの繰り返しになりそうな気がすんの。」

社長の表情が変わる。
俺の好きな“勝負するときの顔”になってた。