キャニング・ウルフ -S.Hirano-

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授業が終わってから、予定通りダッシュで家に戻るとエントランスに神宮寺さんが立っていた。平野さんのこと待ってるのかな？でも、合鍵持ってるはずなのに何故ここで…



「こんにちは」



爽やかすぎる笑顔で声を掛けられ、「こんにちは」と軽く会釈して自宅に向かおうとするも満面の笑みのまま無言の圧をかけられて先に進めない。



「昨日、また先生が何かご迷惑お掛けしたんでしょう？」

「…平野さん、何か言ってましたか？」

「いえ、何も。あの人はどうでも良いことはベラベラ喋るくせに大事なことは全然言わないんです。ただそこは私の責任でもありますから、重岡さんに謝罪をと思いまして」

「いや…私が悪いんです。平野さんが良い小説を書くためにしたことだったのに、廉くんのことを変に言われて、つい酷いことを言ってしまって」

「廉くん、というのはもしかして重岡さんが遠距離恋愛をなさっている恋人の方とかですか？」



神宮寺さんの語り口があまりにも優しくて心地よくなって、つい廉くんの名前まで出してしまったことに気付いてハッとした。



「…平野さんから聞きました？」

「いえ、ただの私の推測です。あの人のことだからそんなことだろうと思って」



神宮寺さんは編集者としてというより、まるで仲の良い旧友を懐かしむような愛情に溢れた優しい顔をしてそう言った。

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