とある森の妄想族(短編集) (ページ46)

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あの日から神山くんが家に来ることは無くなった。
そして実習期間も終わって神山くんはまたただの大学生に、私もただの会社員に戻った。

良かったのかな、これで。
良かったんだよ、これで。
大学には私なんかよりもずっとずっと神山くんに似合う人がいる。

そう思う度に胸が痛くて痛くて。
なんでこんなに辛いんだろう。

重岡くんを好きだった時とはまた違う気持ち。
これも恋、なのかな？

3月14日

一ヶ月前は神山くんと家でチョコ作ってて、重岡くんに失恋した私を慰めてくれて。
...幸せだった。あの時は死ぬほど泣いたけど、今思うと幸せだった。

『会いたいな...』

段々と暖かくなってきた風を感じながら家に帰る。
今日も頑張った。頑張ったよ、神山くん...

『やめよ、女々しすぎ笑』

マンションのエレベーターの中で1人自虐のように鼻で笑う。

「Aさん」

え、待って。家の前に神山くんが見える...。
遂に幻覚が見えるようになったのかな？

「おかえり」

『かみ、やまくん』

「前みたいに鍵持ってないから部屋に入れなかったけど、ご飯は作りますよ」

恥ずかしそうに笑った手にはスーパーの袋があって本当に夕飯作る気で居てくれたんだって嬉しくて。
会いたかったって、私も好きって今すぐにでも伝えたいのに上手く言葉が出なくて
代わりに涙が出る。

「もう、泣き虫。ほら鍵貸して？」

素直にキーケースを渡すと慣れたように一番右の鍵でドアを開ける。

「夕飯作る前に....Aさん」

『っん？』

「おかえりなさい。今日もお疲れ様」

ずっと聞きたかった言葉。
ずっと会いたかった。

『すきっ...すきなの』

「え？」

『神山くんがすき...!』

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