とある森の妄想族(短編集) (ページ45)

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頭を打たれたような衝撃に仕事に身が入らず結局残業。
部長にはバレンタインに残業なんて独り身の特権だななんて嫌味を言われた。
気付いたら周りにはもう誰もいなかった。

もう今日はこのまま何もしたくない。
ふらふらとフラつく足取りで家に到着。

「おかえり」

『かみ、やまく....』

「この前借りた鍵返そうと思って、って何かありました？」

『かみやまくん...ッ』

帰ってきて”おかえり”って言ってくれる人がいること、暖かいご飯が出迎えてくれること、
お風呂が沸かされていること

全部全部久しぶりのぬくもりで涙が出た。

「よしよし...とりあえず靴脱いで？スーツ脱いでおいで。話ならいくらでも聞くから」

ふわっと身体を包み込まれて大きな手で撫でられる。

『...って感じかな。ごめんね、せっかく付き合って貰ってたのに』

食べながら話そうと神山くんが作ってくれた夕食を2人で食べる。

「....ねえ」

『ん？』

神山くんが箸を置くから私もつられて箸を置く。

「俺じゃ...だめ？」

『え？』

「俺まだ大学生やけど、認めて貰えるようにやってきたつもりやねん。
　いつか振り向いてくれへんかなって...」

『え...っと...それってつまり』

「好きです。ほんまは毎回重岡さんの話聞くの辛かった。ここから帰るのが名残惜しかった。
　早く会いたくてAさんの家に来る日が待ち遠しかった。」

初めて見る真剣で男らしい眼差しに目が反らせない。

『で...でも...』

「まだ弟？学生やからって一線置かれるのは嫌や」

『そんなつもりはなかったけど...』

だから弟みたいって言ったときあんな顔したんだ。

「俺が年下やから本気になれへん？...俺じゃだめ？」

すきやねん、ほんまに...

そう噛み締めるように言う神山くんに頭が働かなくて。

『お願い、もう少し時間をください...。頭が混乱しちゃって』

「そうやんな...。ううん俺こそごめんなさい。冷めちゃう、食べよう？」

恋をしていたから分かる神山くんの気持ち。
恋をしていたから分かる。どれだけ勇気がいるか。
恋をしていたから分かる。好きな人に好きな人がいる気持ち。

すぐに答えは出せないけど今日はもう少しだけその手で私の頭を撫でてほしいなんて言ったら狡いかな？

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