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梅雨が明けないまま8月に入った。

今年は冷夏の見通しらしいが、それでも夏の風物詩は健在で。
今夜は都内で有数の花火大会だ。

会場まで電車で1時間ほどかかるこの町でも、午後は、浴衣に合わせて髪をセットするお客様の予約が複数入っており、思い思いの浴衣姿でおしゃれをして出かけて行くお客様たちの楽しい気分が伝染するのか、店内にはふんわりとした高揚感が漂っていた。

本日最後のお客様を見送った後、花火見物組のスタッフを送り出し、一人、閉店作業に取り掛かる。
いつもは新人スタッフの仕事だが、少しでも早く花火に行けるようにと交代を申し出たのだ。

さっきまでの華やいだ空気がすっかり落ち着き、時間の割に静かな店内で、備品を棚に戻し、薬剤類の残量チェックと補充。
洗い上がったタオルを洗濯機から乾燥機に移して、乾くまでの間に掃除を済ませてしまおうと、モップ片手にフロアへと戻った。

椅子やワゴンを移動させながら黙々とモップをかけていると、入り口のドアが開く気配がした。
、、、そういえば鍵をかけるのを忘れていたかも。

「すみません、今日はもう閉、、斎藤くん!、、どうしたの?」

店の入り口で、戸惑いがちに立っていたのは、ギターを肩にかけた斎藤くんだった。

「今日、この間のスタジオで練習だったから、CD返しに来たんだけど、、、。」
「ああ!ありがとう。」

閉店後の店内で長話をする訳には行かないので、彼を促して店の外に出る。
冷房の効いた店内から一歩外に出た瞬間、梅雨時期らしい湿った夏の空気がまとわりついた。

「うわあ、暑いね。」
「今日湿度高いよね。オレこの数分の距離ですごく汗かいたもん。」

Tシャツの首元を前に伸ばして、パタパタと風を入れながら斎藤くんが笑う。
駅に向かう人々も、湿度の高さにうんざりした様子だ。

「わざわざごめんね。次の時でも良かったのに。」
「ううん、どうせ駅までの通り道だし。けど、誰も居なくてびっくりしちゃった。」
「今日は遅い時間の予約が少なくて、ほぼ時間通りに閉店したからね。」
「それにしたって、なんか人少なくない?
何度かこの時間に通りがかったことあるけど、普段もっとお店の人いるでしょ?」

それでさっきは戸惑った様子だったのか。
確かに、普段なら閉店後も話をしたり、勉強の為に残ったりするスタッフの姿がある。

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星宵(プロフ) - そらさん» はじめまして。嬉しい!ありがとうございます。本質は変わらないと思うけど、今みたいに責任ある立場ではない分、学生時代のギタボ氏は、より無邪気で感情に素直だといいなぁと思いながら書いてます。これからもよろしくお願いいたします。 (2020年10月24日 11時) (レス) id: 5d266fa98e (このIDを非表示/違反報告)
そら(プロフ) - はじめまして。無邪気でかわいくて、すごく癒されてます(^^)ひっそり更新楽しみにしてます…無理なさらず(^^) (2020年10月21日 21時) (レス) id: 70b1605356 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:星宵 | 作成日時:2020年10月13日 12時

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