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3月最後の日曜日
美容院は大賑わい。
卒業、入学、進級、就職、4月からの新生活に向け、手っ取り早く髪型から気分を変えたくなるのは、当然のこと。
下っ端の私でさえ、予約リストにはズラリとお客様の名前が並んでいた。
リストを確認し、本日一人目のお客様の元に向かう。
初めて見る名前。
鏡の前にちょこんと座っているのは、少し伸びた明るい色の髪をした高校生の男の子だった。
「お待たせしました。藤原です。」
「え。」
いつものように笑顔で挨拶した私を鏡越しに見上げたお客様は、何だか困惑したご様子。
ああ、これは、もしかして。
「あ、、もしかして、『店長の』藤原を指名されてましたか?」
「え、と、店長さんかどうかは解らないけど、『男性の』藤原さんのつもりでは、いました。」
やっぱり。
「申し訳ありません、うち藤原が2名いるんです。」
「、、、そうみたいですね。」
「予約の時に手違いがあったみたいで、申し訳ありません。」
「いや、僕も知らずに、苗字だけで指名しちゃったんで。」
紛らわしいので、予約担当者は「店長の」とか「女性の」とか、区別して確認するよう徹底しているが、たまに確認不足で今日のようなことが起きる。
手違いとはいえ、店長指名のお客様の髪を私が切るわけにはいかず、何とか調整するしかない。
今日の店長は予約がかなり詰まっているから、難しそうだけれど、、。
「調整させていただきますので、しばらくお待ちいただけますか?」
「あの、、このままで大丈夫ですよ?」
「え?」
「僕も予約の時にあんまりちゃんと話を聞いてなかったんで。」
「でも、、。」
「そんな、変わりませんよね?」
リストを確認しに行こうとする私を引き留めた彼は、
少し首を傾げて微笑みながら訊ねる。
「、、、変わるか、変わらないかで言ったら、相当変わると思います。」
「へ?」
申し出はありがたいけれど、ようやく3年目になる私と店長では、差は歴然だ。
「経験が全然違いますので、、。」
「、、、そんなこと正直に言っていいんですか?」
「今は本当に差がありますから。」
「『今は』、なんだ。」
「え?」
「いえ、だいじょーぶです。このままで。」
「、、、ありがとうございます。では、申し訳ありませんが、このまま私が担当させていただきますね。」
「はい。」
「改めて、よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
頭を下げる私を見上げ、鏡の中のお客様はにこりと笑った。
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星宵(プロフ) - そらさん» はじめまして。嬉しい!ありがとうございます。本質は変わらないと思うけど、今みたいに責任ある立場ではない分、学生時代のギタボ氏は、より無邪気で感情に素直だといいなぁと思いながら書いてます。これからもよろしくお願いいたします。 (2020年10月24日 11時) (レス) id: 5d266fa98e (このIDを非表示/違反報告)
そら(プロフ) - はじめまして。無邪気でかわいくて、すごく癒されてます(^^)ひっそり更新楽しみにしてます…無理なさらず(^^) (2020年10月21日 21時) (レス) id: 70b1605356 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:星宵 | 作成日時:2020年10月13日 12時