検索窓
今日:4 hit、昨日:2 hit、合計:7,387 hit

1 ページ1

3月最後の日曜日
美容院は大賑わい。

卒業、入学、進級、就職、4月からの新生活に向け、手っ取り早く髪型から気分を変えたくなるのは、当然のこと。
下っ端の私でさえ、予約リストにはズラリとお客様の名前が並んでいた。

リストを確認し、本日一人目のお客様の元に向かう。
初めて見る名前。
鏡の前にちょこんと座っているのは、少し伸びた明るい色の髪をした高校生の男の子だった。

「お待たせしました。藤原です。」
「え。」
いつものように笑顔で挨拶した私を鏡越しに見上げたお客様は、何だか困惑したご様子。
ああ、これは、もしかして。

「あ、、もしかして、『店長の』藤原を指名されてましたか?」
「え、と、店長さんかどうかは解らないけど、『男性の』藤原さんのつもりでは、いました。」

やっぱり。

「申し訳ありません、うち藤原が2名いるんです。」
「、、、そうみたいですね。」
「予約の時に手違いがあったみたいで、申し訳ありません。」
「いや、僕も知らずに、苗字だけで指名しちゃったんで。」

紛らわしいので、予約担当者は「店長の」とか「女性の」とか、区別して確認するよう徹底しているが、たまに確認不足で今日のようなことが起きる。

手違いとはいえ、店長指名のお客様の髪を私が切るわけにはいかず、何とか調整するしかない。
今日の店長は予約がかなり詰まっているから、難しそうだけれど、、。

「調整させていただきますので、しばらくお待ちいただけますか?」
「あの、、このままで大丈夫ですよ?」
「え?」
「僕も予約の時にあんまりちゃんと話を聞いてなかったんで。」
「でも、、。」
「そんな、変わりませんよね?」

リストを確認しに行こうとする私を引き留めた彼は、
少し首を傾げて微笑みながら訊ねる。

「、、、変わるか、変わらないかで言ったら、相当変わると思います。」
「へ?」

申し出はありがたいけれど、ようやく3年目になる私と店長では、差は歴然だ。

「経験が全然違いますので、、。」
「、、、そんなこと正直に言っていいんですか?」
「今は本当に差がありますから。」
「『今は』、なんだ。」
「え?」
「いえ、だいじょーぶです。このままで。」
「、、、ありがとうございます。では、申し訳ありませんが、このまま私が担当させていただきますね。」
「はい。」
「改めて、よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」

頭を下げる私を見上げ、鏡の中のお客様はにこりと笑った。

2→



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.2/10 (17 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
27人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

星宵(プロフ) - そらさん» はじめまして。嬉しい!ありがとうございます。本質は変わらないと思うけど、今みたいに責任ある立場ではない分、学生時代のギタボ氏は、より無邪気で感情に素直だといいなぁと思いながら書いてます。これからもよろしくお願いいたします。 (2020年10月24日 11時) (レス) id: 5d266fa98e (このIDを非表示/違反報告)
そら(プロフ) - はじめまして。無邪気でかわいくて、すごく癒されてます(^^)ひっそり更新楽しみにしてます…無理なさらず(^^) (2020年10月21日 21時) (レス) id: 70b1605356 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:星宵 | 作成日時:2020年10月13日 12時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。