失恋作家＜yb×hk＞

☆ ページ10

…



それから次の次の金曜日。
雄也から誘いのメールが届いた。



予測変換に任せて『立ち飲み屋に19時』と返事を
打つと、すぐさま携帯がふるえて俺を呼んだ。
『お酒は抜きで』と絵文字のないメールが届いて
午後の仕事に集中できなかった。

雄也が指定した沖縄料理屋に先に着いたのは俺だ。
とりあえずの小皿が少しとウーロン茶と上っ面の
会話を2、30分。



「……で？なんの話？」



雄也が”最近 海もいいけど川も好きになった話”を
はじめようとするから、思い切って箸を置いた。

俺は不穏な話題はさっさと片づけて、心置きなく
ソーキそばをすすりたいのだ。

雄也はまるで俺を安心させるかのように微笑んで
携帯を差し出した。



「……ブルーバード？」



ブルーバードは若者に人気のSNSだ。
限られた文字数と写真が掲示板にずらり、と並ぶ。



「それ、ひかるくんじゃない？」



パステルピンクの髪の毛を上から自撮りした写真。
顔はちょうど半分に切れてるし、目も伏せてるし、
わかりづらいけど間違いなくひかるだった。
後ろにちらっとひかるのベッドも映り込んでいる。

投稿されたのは最後にひかると話した土曜の深夜。





『 失恋のショックで髪がピンクになりました。』





雄也が「どう？」と目だけで問いかけてくるので
うなずいて答えた。

ひかるの空想癖が世界に晒されてしまったらしい。



「俺もSNSはやらねぇし…ひかるもやってねぇと
思ってたんだけど」

「投稿はそれっきりだから、そのためにつくった
アカウントかもね……髪のことなんか聞いてる？」

「あぁー…まぁ、、染めたって言ってたけど……」



俺がウーロン茶を口にすると、雄也も真似をする。
カラン、と氷が鳴った。それ以上聞かれなかった。



「薮くん、その下の数字みて」
「…………え、、やば、」



3458...3459...3460...。
既読を表すハートの数字がみるみるうちに増えて、
得体の知れない微生物みたいにうごめいて見えた。

無意識的に『とまれ！』と願っている自分がいる。



「一般人の投稿がなんでこんなんなってんの？」
「モデルさんの影響みたいだよ」



雄也は迷うことなく、コメント欄をさかのぼって
でっかいサングラスをかけた女の投稿でぴたりと
止めた。

バラエティーやＣＭで見覚えがある下唇のほくろ。



『カワイイね！♡触わるとご利益ありそう♡』



モデル仲間も便乗して、ファンも流れこんできて、
ピンクの髪は瞬く間に、”恋に効く魔法の髪”だと
拡散されたらしい。



誰かが『失恋ピンキー』という歌まで創る始末だ。



…

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