☆ ページ9
…
耳たぶが平べったくなるまで引っ張り、顔を近づけた。
シルバーで縁取られた小指に乗っかる程の透明な石は
ダイヤモンドカットが施され、ひかるの耳たぶの上で
きらり、と俺にウィンクをする。
「あんなにピアスはやめろ…って……」
俺の鼻先が、ひかるの鼻先を掠めた。
ほんとに嘘みたいにシャンプーの匂いがして、わっと
顔に熱が集まって、ひかるも決まりが悪そうにぱっと
頬を赤らめた。
見開いた黒目のなかに花火が咲いている。
「これツボに効くシールだよ…友達がつくったの…」
「え、あ、シール？…なんだそっか…よかった」
ひかるにはありのままでいてほしい。
からだに穴をあけるなんて、このあったかい耳たぶに
冷たい針を刺すなんて。いくらひかるが決めた事でも
俺が許さない。
もしも、ほかの誰かだったら、なおさら＿＿。
「……やぶ、耳はなして？」
「あ、ごめんっ……」
つい自分のものみたいに触ってしまった。
ひかるはいたたまれない様子で耳をおさえてうつむき
かなしげに息を吸う。
俺はなぜだか胸のあたりが酸っぱくなるように痛んだ。
「髪の毛は……さっき自分で染めたの……」
いつの間にかひかるの中で話題がＵターンしたらしい。
がらんがらん、と空っぽな声に俺もハンドルを切った。
染めた”色”ではなく、
"理由”を気にするべきなのかもしれない。
「……なんか嫌な事でもあった？」
「べつに。……つまんないから染めたの」
ひかるは味のなくなったガムみたいな理由を道に吐いた。
この手の気まぐれには慣れてる。いちいち怒りはしない。
「染めるのが悪いとは言わねぇけど…もうちょい
地味な色にしたら？就職もしないで髪の毛ピンク
なんかにしたら、おばさんたちも心配するだろ？」
……出た。うるんだ瞳から破壊光線。
俺の正論という盾もあっさり壊されて、木っ端みじんだ。
「地味な色って？ミルクティーみたいな？」
甘いたとえは "らしい"けど、具体的すぎて反応に困った。
「別にいいけど…なんでミルクティー限定…？」
「やぶが好きかなって思っただけっ。じゃあねっ」
ひかるは暗号みたいな言葉だけを残し、帰ってしまった。
ドアを閉める音の大きさから察するにしばらくは会って
くれなさそうだ。
「…ミルクティー…？」
その夜、文庫本はどれもつまらなく思えた。
ひかるより難解で心惹かれる本は未だ見つかっていない。
…
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白米(プロフ) - こんにちは。こちらは薮くんの光への愛が前編ずっと綴られていて、それだけで読んでいて胸いっぱいで。両片想いっていいですよねー。はぁ。途中ハラハラしながらも、最後の幸せそうな二人に私も幸せにしてもらいました。ご馳走様でした。 (2019年11月27日 11時) (
レス) id: 087ee442e3 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 大好きな「失恋作家」の二人に再会できて幸せです。ありがとうございます。再読させていただき、初めての夜に辿り着いた二人を心から祝福したくなりました。一人で見る夢以上に二人の未来はきらきら星のように輝いています。そして、スパダリやぶくんに栄光あれ! (2019年4月11日 11時) (レス) id: 58687bcc1e (このIDを非表示/違反報告)
ooota12(プロフ) - はじめまして。流星の詩を歌う光くんに涙してしまいました。しょこるさんの世界観に引き込まれてしまいました。スピンオフの甘々はほっこりするもので大変楽しく読ませてもらいました。 (2019年4月11日 1時) (レス) id: 7038ad089f (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - ♪ゆずりんご♪さん» コメントありがとうございます^^オークションのシーンにはやぶのひかるへの愛をたっぷり込めて書いたので心に響いて嬉しいです＊もっと面白いお話、胸キュンするやぶひかが書けるように次もがんばりますっ♪ (2019年1月12日 13時) (レス) id: 7e239da259 (このIDを非表示/違反報告)
♪ゆずりんご♪(プロフ) - 初コメ失礼します。最初から最後まで、光くんと薮くんの恋物語にハラハラしながら読みました。純粋無垢な光くん、それを助けようとした薮くんの「１２５万円！」の叫びに胸が痛くなりました。すごく面白かったです！ (2019年1月9日 23時) (レス) id: 10db15d6da (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しょこる
| 作成日時：2018年6月8日 21時
