☆ ページ45
…
「きーみーと奏でたー…流星のーうーたー…」
ひかるは若葉色の絵の具が入ったバケツに両手をひたし、
俺になんか目もくれないで、無邪気に、夢を描いていく。
あの日、俺と同じぐらい好きだ、と言ってくれたけれど、
本当は俺よりもずっとずっとこの絵が好きなんだ。
だから、嫉妬した。こっちを見てほしいと、歌を歌った。
「そらーに浮かーべた永遠の誓ーい…っ」
諦めろと言われてもダメだった、大人になれと笑われても
無理だった夢を、"好き"の一言で失ったこと。
俺はいつまでもいつまでもひかるの隣で、後悔していたい。
「どんなにー…っ離れていてーも…っ」
幸せになろう。
失った夢にかけて。
「切ないこの気持ちー…風に揺られて遠ーくまでー…
ふたりー恋した日ー……」
ひかるが全身全霊を、その青春をかけて描いた1枚の絵は、
淡いピンクと若葉色が紙いっぱいに咲き誇り、白い"光" が
喜びに花びらを撒き散らしながら舞う。
「照らーすようにー……」
それは、春を待ちきれない、満開の桜だった。
「……捕まえた」
吸い寄せられた桜の樹の上で、ひかるの丸い肩をつかんだ。
ふんわりと広がったスカートとピンクの髪が重力に従って
ゆっくり、ゆっくり、降りてくる。
それは魔法が溶けるように、夢から醒めるように、そして、
ひかるのロケットが宇宙の果てまで飛んでいく。
この儚く、いとおしいひとを、俺に託して飛んでいく__。
「俺のものになって」
返事も待てずにキスをした。
俺が45度顔を傾けると、ひかるが初々しく逆向きに傾けて、
やっぱりそれは、宇宙でいちばん柔らかいものに思えた。
唇を離してできた隙間が、もうこんなにもどかしくて__、
「っ、ひかる髪が…っ!」
「…へ?」
思わず、焼き立てのパンみたいにふわっふわな髪に触れた。
ついさっきまでバービー人形のようにピンク色だった髪が
健康的な茶髪に戻っていて、罪悪感に胸が締めつけられる。
つまんないから染めたなんて嘘、よそに男がいるなんて嘘、
そんな嘘もう二度と吐かなくて済むように、俺が守るから。
「っ、疑ってごめんな…っ」
「…歌がどうかしたの?」
力いっぱい抱き締めて、髪に指を差し込み、ごめんな、と
繰り返した。それから、大好きだよ、と、ずっと隣にいて
ほしい、と。
12月25日__。たったひとつの魔法も雪も溶かすような
日差しがあたたかなこの日に、
俺とひかるは、恋人になった。
…
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白米(プロフ) - こんにちは。こちらは薮くんの光への愛が前編ずっと綴られていて、それだけで読んでいて胸いっぱいで。両片想いっていいですよねー。はぁ。途中ハラハラしながらも、最後の幸せそうな二人に私も幸せにしてもらいました。ご馳走様でした。 (2019年11月27日 11時) (レス) id: 087ee442e3 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 大好きな「失恋作家」の二人に再会できて幸せです。ありがとうございます。再読させていただき、初めての夜に辿り着いた二人を心から祝福したくなりました。一人で見る夢以上に二人の未来はきらきら星のように輝いています。そして、スパダリやぶくんに栄光あれ! (2019年4月11日 11時) (レス) id: 58687bcc1e (このIDを非表示/違反報告)
ooota12(プロフ) - はじめまして。流星の詩を歌う光くんに涙してしまいました。しょこるさんの世界観に引き込まれてしまいました。スピンオフの甘々はほっこりするもので大変楽しく読ませてもらいました。 (2019年4月11日 1時) (レス) id: 7038ad089f (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - ♪ゆずりんご♪さん» コメントありがとうございます^^オークションのシーンにはやぶのひかるへの愛をたっぷり込めて書いたので心に響いて嬉しいです*もっと面白いお話、胸キュンするやぶひかが書けるように次もがんばりますっ♪ (2019年1月12日 13時) (レス) id: 7e239da259 (このIDを非表示/違反報告)
♪ゆずりんご♪(プロフ) - 初コメ失礼します。最初から最後まで、光くんと薮くんの恋物語にハラハラしながら読みました。純粋無垢な光くん、それを助けようとした薮くんの「125万円!」の叫びに胸が痛くなりました。すごく面白かったです! (2019年1月9日 23時) (レス) id: 10db15d6da (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しょこる | 作成日時:2018年6月8日 21時