☆ ページ32
…
何のことかすぐにわかってしまって、それは広い草原に
降る柔らかな雨のようにひたひたと心に馴染んでいった。
「それ、ひかるくんに言おうね」
そっと俺の肩を抱いて雄也は言った。諦めずに頑張れと
言われていたらここで終わっていたかもしれないと思う。
もう一杯だけいいかな、としょぼくれた声を出した俺に、
雄也は時計も見ずに、俺が奢るよと店員を呼んでくれた。
タクシーを拾うため夜道に出たのは、１時を回った頃だ。
後ろ髪を引かれて振り返ると、さっきまでいた居酒屋の
明かりが夜に飲み込まれまいと戦っているように見えた。
タクシー代は俺が奢った。
…
ひかるの通っている美大には噴水がある。
ベージュの校舎や、葉っぱのちいさい植木に囲まれて
すれ違う生徒達はマーブルチョコみたいにカラフルだ。
髪も服も喋り方も。
「……芸術文化学科………」
さっき上司に『熱が出た』と鼻声を作って電話をした。
告白するために有給をとる日が来るとは思わなかった。
「……ここか、、」
芸術文化学科は校舎と校舎と間、ごぼん、とくぼんだ
場所にひんやりと存在していた。
中に入るとほんの少しカビ臭いものの、普通の大学と
見た目はそう変わらない。
ひかるの居場所を早く知りたいような、
まだこわいような、定まらない気持ちで廊下を歩いた。
「あっ、君ちょっと」
「……へ？」
人気のない校舎を彷徨って、やっと同じ年くらいの男と
すれ違った。銀髪に丸めがね、ガラクタが突っ込まれた
ダンボール箱を抱えている。
グレーのロングカーディガン、 白いTシャツに縦書きで
＜一番＞の文字。
「八乙女光って子、どこにいるかわかる？」
男はじっとしたまま品定めするような瞳で俺を見つめて
突然、なぞなぞが解けた子供みたいに口を大きく開いた。
「あんたがミラクルイケメンリーマンっ？
…じゃなくてぇ〜……………"やぶ"だっ！」
自分の名前に面食らった俺を尻目に男はふっくらと笑う。
「ひかるなら２階の１番広い部屋にいるよ」
「…ちょっと待って、っ」
立ち去ろうとした男にもう用はなかった。でも、ひとつ
だけ確かめたくて声をかけた。
「その髪ってさ…目が覚めたら突然銀色になってたとか？」
「…は？何言っちゃってんの？」
やっぱり、魔法の髪なんか存在しない。ひかるの妄想だ。
この男のひややかな瞳がその証拠＿＿。
「オレは宇宙人だから、生まれつきだよ」
角を曲がった背中。美大は小説より奇なり。
ひかるを変人扱いするのは一切やめようと、胸に刻んだ。
…
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白米(プロフ) - こんにちは。こちらは薮くんの光への愛が前編ずっと綴られていて、それだけで読んでいて胸いっぱいで。両片想いっていいですよねー。はぁ。途中ハラハラしながらも、最後の幸せそうな二人に私も幸せにしてもらいました。ご馳走様でした。 (2019年11月27日 11時) (
レス) id: 087ee442e3 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 大好きな「失恋作家」の二人に再会できて幸せです。ありがとうございます。再読させていただき、初めての夜に辿り着いた二人を心から祝福したくなりました。一人で見る夢以上に二人の未来はきらきら星のように輝いています。そして、スパダリやぶくんに栄光あれ! (2019年4月11日 11時) (レス) id: 58687bcc1e (このIDを非表示/違反報告)
ooota12(プロフ) - はじめまして。流星の詩を歌う光くんに涙してしまいました。しょこるさんの世界観に引き込まれてしまいました。スピンオフの甘々はほっこりするもので大変楽しく読ませてもらいました。 (2019年4月11日 1時) (レス) id: 7038ad089f (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - ♪ゆずりんご♪さん» コメントありがとうございます^^オークションのシーンにはやぶのひかるへの愛をたっぷり込めて書いたので心に響いて嬉しいです＊もっと面白いお話、胸キュンするやぶひかが書けるように次もがんばりますっ♪ (2019年1月12日 13時) (レス) id: 7e239da259 (このIDを非表示/違反報告)
♪ゆずりんご♪(プロフ) - 初コメ失礼します。最初から最後まで、光くんと薮くんの恋物語にハラハラしながら読みました。純粋無垢な光くん、それを助けようとした薮くんの「１２５万円！」の叫びに胸が痛くなりました。すごく面白かったです！ (2019年1月9日 23時) (レス) id: 10db15d6da (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しょこる
| 作成日時：2018年6月8日 21時
