失恋作家＜yb×hk＞

☆ ページ12

…



ひかると赤ん坊は眠るのが仕事。
徹夜なんて、夏に雪が降るくらいあり得ない話だ。



俺はＡＭ５時にアラームをかけて寝起きを狙った。
寝顔でパワーをチャージして、朝どれ野菜ばりに
爽やかなお説教といこう。

こわごわ覗いた例の投稿は一夜にして『♡ 1.2万』



「…できたぁーっ！！」



ひかるの部屋のドアノブに触れた瞬間轟いた声に
心臓が止まるかと思った。
おそるおそる開いたドアの向こうでぴょんぴょん
はしゃぎ回るひかると、軋むベッドのスプリング、


そして、
視界いっぱいに降り注ぐ白銀のスパンコール。


夏に雪が降る。ひとはそれを魔法と呼ぶほかない。



「できたできたできたっ…！」
「ひかるっ、下でおばさんたち寝てるからっ…」



俺が人差し指を口に押しつけるとひかるはぐっと
声のボリュームを絞って、「できたできたっ」と
とんとん相撲みたいに細かく跳ねた。



「鉄人アマガエラーの秘密基地っ！」



サングラスなしでは直視できないほど眩しい笑顔。

ずいっと顔の前に差し出されたピアスになんとか
ピントを合わせたら、目の前にはひかるワールド。
素直に心が躍った。



「宇宙船みたいですげぇな…」
「…秘密基地だよ？」



中央にショッキングピンクのドロップ、星や銀の
ステッキ、散らばった小さな色石、口に入れたら
花の蜜の味がしそうな球体のビーズ。
雨が降っているようにみえるメッシュ状の生地が
四方に咲いて、糸のほうき星が引っかかっている。

そのすべてをぐるりと土星の輪っかみたいな細い
三つ編みが抱き込む曲線美。
パステルピンクからほうき星色への移り変わりが
綺麗だ。

ひかるがここまでしてやるお友達って誰だろうと
少し気になる。



「ねぇやぶ、ここハゲげてないよね？」
「…ははっ…徹夜ぐらいでハゲるわけ……」



ひかるが手で押さえたつむじ辺りに目を凝らすと
毛束ひとつ分、ジャキンとはさみで切られた跡が
痛々しく精気を失っていた。



「お前もしかしてコレって……コレ？」
「うんっ。魔法の髪でつくったのっ」



ひかるはまたご機嫌なターンを決めて窓を開けた。
「できたよー！」と叫べば、どこかで犬が遠吠え。

俺の大切な幼馴染はもうすでに
SNSの魔法にかかってしまったらしい。




「…てか、鉄人雨がえるって何…？」




夏の朝、雪が降った。
夢と恋心を試されるスタートラインに立たされて。

この鉄人なんちゃらが俺達の運命を狂わせたのは
けっして魔法のせいなんかじゃない。




ひかるのピアスは102万とんで4500円で売れた＿。




☆第２話：鉄人アマガエラー☆

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