☆ ページ2
…
「サラリーマンもなかなか悪くないって」
「なんで。ウソだ」
ひかるは顔の下で枕を抱いてこちらを見た。
夏のおわりを惜しむような目をするから胸が苦しくなった。
心臓が嬉しい気持ちでパンパンに膨れたり、器官のほそい
部分が悔しさで詰まったりする。
ひかると一緒にいると、身体の内側の形が手に取るように
わかるのだ。
「……はい歌って。夏っぽい歌がいい」
ひかるはずいっと腕を伸ばして、もう半分以上かじられた
アイスバーを俺の口の真ん前に突き出して言った。
水色のスタンドマイクは今にも崩れそうに汗をかいている。
ひかるの食べかけ。ひかるの唾液。ひかるはずるい。
俺はラブソングしか歌えないし、片想いの歌しか歌えない。
ミートスパゲティ味のキスをしたとか、記念日がどうとか、
今どきさむいし、ありきたりだし、羨ましいしでお断りだ。
端っこを少しかじると、それは未だに初恋の味に思われて
また胸が詰まった。
「じゃあ、、幼馴染の髪を撫でたくなる歌でもいいよ？」
ひかるは仰向けになり、口を大きく開けて、アイスバーを
船のイカリのように吊るした。
するする木の棒をすべった水色の塊がべちゃり、と口内に
落ちて、ひかるの窮屈そうな喉をくだっていく。
ころん、とこちらを向いてじィーっと待っているひかるに
今度は俺が腕を伸ばした。
チョコレート色の髪ををふさふさ混ぜるとひかるは笑った。
くすぐったそうに、もっとして、と、ねだるように。
「チューしたらだめだよ」
「……しねぇよ」
ひかるはそろっと目を閉じて、俺はひかるが眠るまで髪を
撫でた。
細い髪に通した指先だけが子供の頃にタイムスリップして
俺も目をつむって遠くに蝉の声を聴いた。
俺が本気で頼めば、ミートスパゲティ味のキスくらいなら
させてくれるかもしれない、と思う。
でもそれは、俺が普通を捨て夢追い人に転職すればの話だ。
ひかるは今、ピザ回し選手権世界3位の男と付き合っている。
…
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白米(プロフ) - こんにちは。こちらは薮くんの光への愛が前編ずっと綴られていて、それだけで読んでいて胸いっぱいで。両片想いっていいですよねー。はぁ。途中ハラハラしながらも、最後の幸せそうな二人に私も幸せにしてもらいました。ご馳走様でした。 (2019年11月27日 11時) (
レス) id: 087ee442e3 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 大好きな「失恋作家」の二人に再会できて幸せです。ありがとうございます。再読させていただき、初めての夜に辿り着いた二人を心から祝福したくなりました。一人で見る夢以上に二人の未来はきらきら星のように輝いています。そして、スパダリやぶくんに栄光あれ! (2019年4月11日 11時) (レス) id: 58687bcc1e (このIDを非表示/違反報告)
ooota12(プロフ) - はじめまして。流星の詩を歌う光くんに涙してしまいました。しょこるさんの世界観に引き込まれてしまいました。スピンオフの甘々はほっこりするもので大変楽しく読ませてもらいました。 (2019年4月11日 1時) (レス) id: 7038ad089f (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - ♪ゆずりんご♪さん» コメントありがとうございます^^オークションのシーンにはやぶのひかるへの愛をたっぷり込めて書いたので心に響いて嬉しいです＊もっと面白いお話、胸キュンするやぶひかが書けるように次もがんばりますっ♪ (2019年1月12日 13時) (レス) id: 7e239da259 (このIDを非表示/違反報告)
♪ゆずりんご♪(プロフ) - 初コメ失礼します。最初から最後まで、光くんと薮くんの恋物語にハラハラしながら読みました。純粋無垢な光くん、それを助けようとした薮くんの「１２５万円！」の叫びに胸が痛くなりました。すごく面白かったです！ (2019年1月9日 23時) (レス) id: 10db15d6da (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しょこる
| 作成日時：2018年6月8日 21時
