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手汗まで滲んできて、篭が滑り落ちないよう持ち直す。
なんとしてでも早くこの状況から抜け出さなければ。
最悪動揺が悟られても良いから、さっさと服を渡して退散しよう。
「お、お嬢さ―――」
ま。
不意に、間近で花の香りが鼻腔を擽った。
あぁこれ確か、Aが好きなシャンプーの香りだ。
現状には理解が追い付いていないのに、そんな余計なことは冷静に分析できてしまう。
なんか、めっちゃ近くにAの顔がある気がするんだけど。
額になんか当たってる気がするんだけど。
てか、頬にもなんか冷たいもの押し付けられてる感覚があるんだけど。
「うーん、熱は無さそうね。今日の所は早めに部屋へ戻りなさい」
「……」
「伊沢、聞いているの?」
「……え、あ、はい」
正直なにを言っていたのか聞き取れなかったが、取り敢えず返事をしておく。
するとどうやらその返事を聞けたことに満足したらしく、Aは俺の腕から篭ごと服を受けとると、呑気に鼻唄を奏でながら浴室に消えていった。
ただ一人、呆気に取られたままの俺だけが、廊下に取り残された。
ボーッとしたまま長い廊下を歩く。
絨毯に靴が沈み込む感覚。
俺は一体なにをされたのだろうか。
顔が赤いことを心配されて、篭持ち直して、そしたら急に、めっちゃ近くでシャンプーの香りがして……。
「っ……!」
時間差で来た。
身体中の血液が一気に顔に集まって、溢れそうになった声を手で押さえ込む。
今更理解が追い付いてしまった。
そうだ。
頬を両手で包まれて、額を合わせられたんだ。
口を覆っていた手を、徐に額へ運ぶ。
とっくに温もりは消えている筈なのに、心なしか、まだあの感触が残っているような気がした。
頬に触れた、冷え性だというお嬢様らしい、冷えた指先の感触も。
「……そういや」
思い出された記憶は主に顔だったが、段々と視点が下がっていく。
「胸、またでかくなってたな」
―――後日、この発言を洩らした場面を目撃していた山上によって、俺がお嬢様に渾身のビンタを喰らう羽目になった話は、また別の機会にすることとしよう。
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白菜(プロフ) - あるてぃめっとさん» コメントありがとうございます!この作品のcssは自作ですね。フォントは『ほのか丸ゴシック』を使用させて頂いてます。参考にしていただければ幸いです! (2021年3月30日 17時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
あるてぃめっと - こちらの作品でははじめまして(といっても覚えてないと思いますが…)今回も素敵な文章をありがとうございます。それともう1つ素敵なcssだなと思い…自作でしょうか?紹介がないので…もしよろしければ、使っているフォントを教えていただけないでしょうか? (2021年3月30日 16時) (レス) id: 037db07d8a (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - Rukaさん» 私も書きながら「この関係性が尊いと思える感じにしたい」と思ってるので、そう言っていただけると嬉しいです!お嬢があんな子だからきっとこんな関係性が出来たんでしょうね。これからも彼らをほほえましい気持ちで見ていただけたら嬉しいです(笑) (2021年3月29日 22時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - SALTさん» コメントありがとうございます!普段は文章詰め詰め野郎なので、今回の話は確かに読みやすいかもしれません(笑)応援ありがとうございます!ほんとにマイペースですが、これからもちょこちょこ更新していけれたらなと思います! (2021年3月29日 22時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
Ruka(プロフ) - なんというか、お互い憎まれ口を叩きながらもお互いに好いているような関係が本当に好きです。お嬢はいつもこんなに暖かい空間にいるんだと思うと、なんだか微笑ましくなってしまいました笑 (2021年3月29日 16時) (レス) id: 323f90024b (このIDを非表示/違反報告)
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