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体に染み付いた執事としての役割に苦笑していると、起き上がったAが、突然俺に抱きついてくる。
Aが抱きついてくるなんて、もう何年も前以来一度だって無かった。
お嬢様なのにはしたないだとか。
もう子どもじゃないのだからとか。
そんな台詞を溢しては、腕を広げる伊沢達を撃沈させて、本人はスタスタと横を素通りしていた。
……もしかしたら、あれは。
両親は見ることのできなかった、Aの反抗期だったのかもしれない。
「今日もいっぱい頑張ったね。お疲れ様、A。偉い偉い」
「……うん」
「お父様とお母様はね、まだ当分、屋敷には顔を出されない」
「……」
「でもね、その代わり、俺達がちゃんとAのこと見てるから。だから、無理しなくて良いよ」
後頭部を撫でながら、普段は説教に変わってしまっている素直な思いをAに伝える。
確かに俺は、伊沢より長くは一緒に居ないけど。
それでも、十年近く一緒に居るんだから、ちゃんとAが頑張ってることくらい知ってるよ。
だから。
俺達の前でくらいは、いつも通りで居てよ。
「……完璧じゃ、なくて良い?」
「うん。完璧じゃなくて良い。というか、取り繕わなくたって、Aはもう十分完璧でしょ」
「……」
「否定はしないんだ」
なははっ、と笑いを溢せば、釣られるように、Aも笑みを溢す。
外では見られない、俺達だけが見れるこんな自然な笑みがあるなら。
執事って役職も、案外悪いものじゃないのかもしれない。
*
「そういうわけで迎えに来てほしいんだよねぇ」
≪さては馬鹿なんすか??≫
「そうかもしれない」
え?帰りはどうしたのかって?
そりゃもちろん、こうちゃんに伊沢を落としてもらって、俺が乗ってきた車運転してもらったよ。
いやぁ、やっぱり持つべきものは執事長の友人だよね。
―――その後、次の月の給料が今月の半額になっていたのは、また別の話。
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白菜(プロフ) - あるてぃめっとさん» コメントありがとうございます!この作品のcssは自作ですね。フォントは『ほのか丸ゴシック』を使用させて頂いてます。参考にしていただければ幸いです! (2021年3月30日 17時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
あるてぃめっと - こちらの作品でははじめまして(といっても覚えてないと思いますが…)今回も素敵な文章をありがとうございます。それともう1つ素敵なcssだなと思い…自作でしょうか?紹介がないので…もしよろしければ、使っているフォントを教えていただけないでしょうか? (2021年3月30日 16時) (レス) id: 037db07d8a (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - Rukaさん» 私も書きながら「この関係性が尊いと思える感じにしたい」と思ってるので、そう言っていただけると嬉しいです!お嬢があんな子だからきっとこんな関係性が出来たんでしょうね。これからも彼らをほほえましい気持ちで見ていただけたら嬉しいです(笑) (2021年3月29日 22時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - SALTさん» コメントありがとうございます!普段は文章詰め詰め野郎なので、今回の話は確かに読みやすいかもしれません(笑)応援ありがとうございます!ほんとにマイペースですが、これからもちょこちょこ更新していけれたらなと思います! (2021年3月29日 22時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
Ruka(プロフ) - なんというか、お互い憎まれ口を叩きながらもお互いに好いているような関係が本当に好きです。お嬢はいつもこんなに暖かい空間にいるんだと思うと、なんだか微笑ましくなってしまいました笑 (2021年3月29日 16時) (レス) id: 323f90024b (このIDを非表示/違反報告)
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