15 ページ15
.
「へえ。運動会」
「そうなんです。コナン君達が楽しそうに話してて」
ポアロでAの隠していたであろう話を聞く。
カップを拭きながら、梓の話に耳を傾ける。
夜中の出来事以降、彼女は安室に少し距離を置くようになった。
仕方のないことだと感じる。
何事もないかのように終わり、二人で床についた時、
(Aの本当の姿を今のタイミングで聞くべきだっただろ)
そう自問自答した。
「向こう」の世界の彼女はあの写真の姿で、恋人がいた。
そんな簡単な予想が当たっただけで結局何も知らないに等しい状態。
あの状況で普段の自分なら問い詰めていたことだろう。
しかし、聞かなかった。
その訳は何となく分かってはいる。
Aに嫌われるのが怖かったからだ。
「安室さんは勿論行かれるんですよねえ。運動会」
「…ええ」
「あ。またAちゃんに教えて貰えなかった感じですかあ」
のんびりとした梓の話しぶりに自分の心が和んでいくのを感じる。
カウンターの奥の方でビデオカメラを貸してあげようなんて、楽しそうに話すマスターの声が聞こえる。
(いくら彼女が本当は大人だとはいえ、今はただの小学生だ)
「はは。じゃあ貸してもらおうかなあ」
邪心をかき消すようにして、二人の会話の輪に入る。
胸の奥がきゅうと締め付けられるような感覚に陥りながら、笑顔を浮かべる。
少し、苦しかった。
最初のうちは遠慮してぎこちない態度だった彼女は、
今では当たり前のように透さんと呼び、帰れば安室に笑顔を向けてくれる。
「向こう」のAがどんな娘だったかなんて一つも知らない。
しかし、「今」のAが安室の支えになっているのは明白だった。
(とんでもないものを招き入れてしまった)
ふわりと香る珈琲の香りが鼻先を擽る。
苦く、どこか酸味のあるような、親近感を感じる香り。
「これ、Aちゃんが選んでくれた豆なんですよ」
マスターはそう言い、写真を見せてくれた。
そこにはお使いがてら彼と買い物に行くAの姿。
真剣な眼差しで豆を選んでいる。
今はなんとなくそれが見ていられなくて、
「皆さんに可愛がってもらえて何よりです」
テイスティングした珈琲を口に含んだ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 161人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Nattu(プロフ) - 慎さん» すみません今気づきました〜;;遅れてすみません;;作品違うのに遊びに来てくれて嬉しいですいつもありがとうございます！好きな作品被りで嬉しいです〜！ (2023年1月11日 16時) (
レス) id: 3f1ef1106e (このIDを非表示/違反報告)
慎(プロフ) - Nattuさん〜！新作投稿ありがとうございます😊まさかの供給に少し驚きました。コナンの世界は私も好きなので今から凄く楽しみです(๑•̀ㅁ•́ฅ✨今作品も変わらず、応援しております´ω`* (2023年1月2日 22時) (レス) @page3 id: a9894f14eb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Nattu | 作成日時：2023年1月2日 22時
