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「ここ、お前の部屋」
マルコに手渡された、Aに教えることリストを片手にAを連れて船内を歩く。
最初に連れてきたのはAに与えられた個室。
男の船員はほとんど雑魚寝雑魚寝の大部屋だが、ナース曰く女はデリケートらしいので個室が与えられている。
ドアを開けるとベッド、机、本棚などが置かれた決して広くはないが、綺麗な部屋。
Aに入るよう促すと、ゆっくりと足を踏み出し、部屋の中へと入っていった。
『……これはなんですか？』
少しの間部屋を見回していたAが指さしたのは本棚だった。
本が数冊置かれており、指さされているのは本そのもの。
一瞬理解が追いつかず、すぐに返事ができなかった。
『お、お前、本も知らねえのか？』
「…わかりません。ほん、と言うんですね」
どんなに劣悪な育て方をされたらこうなってしまうのか。
俺だってガキの頃から本くらいは知っていた。
「というか…その、お前、いくつなんだよ」
『…………多分、……18』
多分かよ……。
しかし、この年でこの世間知らず具合はかなりまずい。
「…わかった、わかった。俺が色々教えてやる」
『………結構です、と言いたいところなのですが…無知なままこの場に置かせてもらうのも申し訳ないような気もします。』
「だったら俺に全部任せろ！なんたって俺は兄貴やってるからな！」
恐らく船内で1番若く、弱々しいコイツを見ていたら不意に弟のことを思い出してつい口から出た言葉。
別にコイツの兄貴になってやりたいと思ったわけでは無かったのだが、
「…！？なんで泣いてんだよお前！意味わかんねえって！」
目の前にいるAが突然泣き出し、わけも分からず俺は俯いてしゃくりあげているAの顔を覗き込んだ。
『っ、う、おにいちゃぁん……』
クシャクシャの泣き顔はあまりにあどけなくて、ただの子供のようで。
思わず胸が締め付けられるような感覚に襲われ、俺はAの背中をさすりながら座らせた。
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作者名：白鞠 | 作成日時：2022年10月30日 1時
