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「…で、なんでその女を連れてきたんだよい」
「いや……なんでって言われると…説明できねェけど……」
無理矢理軍艦から女を攫ってきたが、溶かして、殺してとうわ言を言い続ける女に、船員一同頭を抱えていた。
しばらく額に手を当てて悩んでいたマルコはナースたちに声をかけ、とりあえず女を風呂に入れるよう指示した。
事の顛末を静観していた船長、白ひげは不意に口を開く。
「随分と可愛い女連れてきたじゃねェか。なあ、エース」
グララララ！と豪快に笑いながらオヤジが言うと、船中で張り詰めていた緊張が少し緩んだような気がした。
しばらくして、ナースたちに連れられて風呂から出てきた女はまさに美しいの一言に尽きる容姿をしていた。
しかし体は風が吹けば折れてしまいそうなほど細く、ところどころに痛々しい痣まである。
「おめェ、名はなんという」
両サイドに見張りが着き、甲板で座らされている女にオヤジが問う。
しばらく沈黙が続き、誰もが女を怪しむなか、か細く小さな声で女は名乗り始めた。
『……A』
「なぜ死にたい」
『私はいらない子だから』
「なぜそう思う」
『……』
オヤジに真っ直ぐ見つめられたAと名乗った女は口を噤んで俯いてしまった。
しかし誰も彼女を急かすことはなく、時間だけがすぎていく。
そして、遂に顔を上げ口を開いたAは目にいっぱいの涙を溜めていた。
『だ、だってっ！私のせいで、たくさんの人が死ぬんだって、父も母も私を嫌って、いきなり海軍に突き出して、唯一私を大事にしてくれていた兄も私を庇って大怪我して！』
ボロボロと目から涙を零しながらAは体躯に似合わない声で叫び、訴えた。
正座した足の上で握られた拳は、血が出そうな程に握りしめられていて、悲痛な声を遮るように甲板にまたオヤジの声が響く。
「親父やお袋に愛されたかったか」
『…！』
虚ろだった瞳がまた少し揺れる。
頷くことはなくとも、きっとAの中では何かが動いたのは確かだった。
「だったらお前、今から俺の娘になれ」
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作者名：白鞠 | 作成日時：2022年10月30日 1時
