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やがて、彼が慎重に口を開いた。
「もし、Aに『彦星』が必要やっていうんなら、俺がなる。Aの、たった一人の『彦星』になりたいんよ、俺は」
切なそうに紡がれた言葉にハッとした。
酔っているとはいえ、いや、酔っているからこそ、本心…に近い想いなんだろう、と思えたからだ。
4人も彦星候補が現れたと判明した時、センラくんは最初は驚いていて、坂田さんと言い争ったりしてたものの、その後それを自ら口にすることはなかった。
だから、センラくんの中では彦星候補というポジションはさほど重要ではない、つまり私に対する特別な感情は無いんだろう、と私の中では勝手に結論づけられていたのだ。
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会場最寄りの駅でタクシーを拾い、私たちは一緒に乗り込んだ。
本当は駅から、家の最寄駅まで電車で帰ろうと思っていたのだけど、この状態のセンラくんを電車に乗せてその後また歩かせるのは大変そうだったのでタクシーにした。
距離的に、私の家よりもセンラくんの家の方が手前にあり、先に着いた。
マンションの前で降ろす…と思っていたのに、
「Aが一緒じゃなきゃ帰れへん」とか酔っ払いのワガママが炸裂した。
ここで揉めるのもタクシーの運転手さんに迷惑だと思い、仕方なく私もそこでタクシーを降りた。
「んふふ、A〜」
「ハイハイ…重いよセンラくん」
無意識なのか確信犯なのか分からないけど、センラくんはやけに私にくっついてくる。
エントランスのキーを開け、エレベーターに乗ると、急に二人きりの狭い空間になった。
さっきの告白に近い発言のこともあり、一旦彼を意識してしまうともう取っ払えなくて、どんどん顔が熱くなる。
それを悟られないように下を向くけど、センラくんにはお見通しだったみたいだ…酔っ払いのくせに。
「あれ〜A、もしかして、照れてるー?」
ふにゃりと笑いながら、ほっぺたをツンツンしてくる酔っ払い。
「もう!うるさいなあ!」
「こんなんで照れてるとか…」
彼を押し退けようと出した私の手を、彼の手が絡めとる。
反対の腕はまた私の腰に回されていて、今度は正面から抱き寄せられるような形になった。
見上げた彼の顔は、まだ普段とは違って、目が据わって、視線がとろんとしている。
その表情と同様に、色気を含んだ声音が、彼の口から聞こえた。
「もし今、キスしたらどんな顔してくれるん?」
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しろ鮎(プロフ) - 白雨さん» 白雨さんー!お返事遅くなりすみません!ありがとうございます!勝手に心の中で師と仰ぐ白雨さんにそんな風に言っていただけるなんて、とっても嬉しいです。引き続き温かい目で見守っていただけたら心強いです、また覗いてやってください〜! (9月4日 12時) (レス) id: 452c1db09c (このIDを非表示/違反報告)
白雨(プロフ) - セさんルート完結おめでとうございます〜!私はやっぱりしろ鮎さんの書く文章が大好きです……!展開も、表現も、ストーリー全体も全て飽きなんて感じさせなくて、心から尊敬します。未だに他の小説も読み直したりしてます。別ルートのお話も楽しみにしております! (9月1日 0時) (レス) id: 4da6c03140 (このIDを非表示/違反報告)
しろ鮎(プロフ) - ちぇろさん» わー!ちぇろさんだ!お久しぶりですご無沙汰してます〜!毎度宣伝しないのに見つけてくださって、コメントまでくださってありがとうございます!ホントに長い間読んでもらって、作者冥利に尽きます。しばらくこのシリーズが続くのでまた次作もよろしくお願い文字数 (8月23日 19時) (レス) id: 452c1db09c (このIDを非表示/違反報告)
ちぇろ - しろ鮎さんの小説を初めて読んでから約4年が経ちましたが今もこうして新しいお話を見つけることができて幸せです。これからもしろ鮎さんのペースで更新待ってます!連投失礼しました、次のシリーズも楽しみにしています! (8月23日 2時) (レス) id: cd65e0c157 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇろ - お久しぶりです!素敵なお話をありがとうございました!モチーフになっている七夕曲、大好きな曲なので歌詞が元になったセリフが出てきてキュンキュンしました!幼馴染の世話焼きセさんという設定すごく刺さりました… (8月23日 2時) (レス) @page31 id: cd65e0c157 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろ鮎 | 作成日時:2023年7月24日 16時