白と黒の奇跡 (ページ4)

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A「ご注文お決まりですか？」

(？)「あぁ、おでんと、熱燗を…」

男性は、小さな声で注文を済ませると、いつものように俯いて新聞を読み始めた。

A「おでんと熱燗、“あの人”からだよ」

厨房にいる母へ注文を告げると、母の表情がふっと険しくなる。

たまにふらっと訪れるその中年男性は、いつもほとんど注文をせず、隅の席で一人静かに食事をする。
そして必ず、お会計の数倍もの金額をテーブルに置いて帰るのだ。

何回めかの来店時に、こういう事は困るとお金を返そうとしたが、
「これくらいはさせてほしい」
「何も聞かずに受け取ってほしい」
の一点張りだった。

母が険しい顔でため息をつきながらおでんを皿に盛り付ける。

『一体何者なんだろう…』

そんな事を考えていると、再び純喜が店にやってきた。

純「Aー！店番変わってきた！手伝うでー！！」

(客1)「おっ純喜！今日も婿入り修行か？」
(客2)「随分とAちゃんに熱心だなあ！結婚式には呼べよ！」

純「ななな何言うてんすかっ！！ちゃいますって！やめてくださいよ！！」

店に入るなり常連に茶化され盛り上がる純喜を、その男性も隅のテーブルからじっと見ている。
よく見ると口元はわずかに緩み、微笑んでいるようだ。

ーーー

純「なぁA、今日もあの人来とったなぁ。あしながおじさん！」

A「あぁね。ってか何それ(笑)あしながおじさんって」

純「だってそうやん！いつも全っ然食ってないのに何万も置いてくやん！寄付やろ？！誰なんあの人？！」

閉店後の厨房で並んで皿洗いをしながら無駄話をしていると、昼間にコンテストを勧めてくれた事を思い出す。

『せっかく純喜も勧めてくれたし、やっぱり応募してみようかな…』

純「…っと、あのさ、今日の常連さんとの話やけど…、あの時俺、ちゃいますって否定してたやん。でも、その…あれは本心じゃないねん…ほんまに」
　

隣で皿洗いをしながら話す純喜の横顔が、どんどん赤くなる。

純「そのさ…ほんまは俺、お前のこと…っ、いや、だからその…いつかは俺が責任持ってお前を…
A「純喜、私決めた！」

純「えっ？！？！」

A「私、コンテスト応募してみる！！」

驚いて手を止める純喜に、私は続けて言う。

A「やらない後悔より何とかって言うじゃん。私やってみるよ。だから、試食とか店番とか助けてくれる？」

純「もちろん！任せろや！！！」