白と黒の奇跡 (ページ3)

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純喜はポケットからクシャクシャに折り畳まれた一枚のチラシを広げると、続けて言う。

純「A、料理上手やし！これめっちゃええやん！優勝したらここで働けるんやで？」

【白岩食品主催愛のレシピコンテスト参加者大募集！】

そう書かれたチラシを私は思わず凝視する。

純「ほら！ここ！書いてあるやろ？！」

純喜が興奮気味に指をさす先にはこう書かれていた。

【優勝者１名！白岩食品にて３ヶ月間の研修後、正社員として採用させて頂きます。(学歴、年齢等不問)】

A「………え、正社員…？！白岩食品ってあの白岩グループの？！さすがに冗談でしょ？」

純「それがホンマやねん！！ほんまに優勝したら働けるんやって！なぁA、応募しようや！！Aなら絶対いけるて！！」

ないない…、と興奮する純喜をあしらいつつも、私は内心取り乱していた。

白岩食品といえば、もはや知らない者はいない白岩財閥のグループ企業だ。

『学歴も年齢も不問なら、私にもチャンスがあるんだ…。
でも優勝者は一人…どう考えても私なんか無理無理！』

母「ただいまー。ふぅ、重い重い。あら純喜くんまだいたの？お店大丈夫？」

母が買い出しから帰ってきた。

純「おばちゃんお帰りー！って…やば！店番！！
Aまた後でな！このチラシはあげるで！！」

純喜はそう言うなり、チラシを置いて慌てて酒屋に戻って行った。

ーーー

夕飯時になり、再び賑わい始める店内。

注文をとるため、伝票を出そうとエプロンのポケットをまさぐっていると、突如クシャクシャの紙に手があたる。

先ほど純喜が置いていったコンテストのチラシだ。

『…やっぱり、ダメ元で応募だけでもしてみようかな。』

ーー私は幸せになっちゃいけない、贅沢しちゃいけないーー

自分の不注意で生き別れてしまった幼い弟…

弟の事を思うと、私に人生を楽しむ権利などないと、そう自分を戒めてずっと生きてきた。

私には、夢も、幸せもあってはいけないのだ。

ポケットの中でクシャクシャのチラシを握りしめながら葛藤していると、カランとドアが開く音がする。

A「いらっしゃいませ！」

全身黒一色の服を身に纏い、帽子に眼鏡姿の男性が入店すると、いつもと同じ一番隅の席にポツンと腰掛けた。