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深澤side
深澤「阿部ちゃん、わかる？ふっかだよ」
俺にはよくわからない機械に囲まれて、口からも管が通っていて、ピコピコと警告音みたいな音が鳴っている、真っ白な部屋。
前日に阿部ちゃんに会いに行った時も、あんまり状態は良くないみたいで、虚な目で天井を見つめて俺のことを認識してるのかしてないのかも分からないような状態だった。
そして今日俺に入った一本の電話。
それは、阿部ちゃんの容態が急変して、今夜が山場かもしれないというもので。
必死で呼びかけて冷えた手を握るけど、中々数値は回復しないのかお医者さんは渋い顔。
深澤「阿部ちゃん、ねぇ、戻ってきてよ。お店、俺1人に残していくの？2人でまたカウンター立とうよって、約束したじゃん…常連さんも待っててくれてるよ…ねぇ…」
機械の音にかき消されそうになりながらも、阿部ちゃんに声をかけ続ける。
聴力は最後まで残るって、何かで読んだ気がして。
深澤「…っ阿部ちゃん？」
俺の握る手を、握り返されたような気がして、痛々しくて見ていられなかった阿部ちゃんの顔を見る。
すると、うっすら、ゆっくりと目が開いた。
深澤「阿部ちゃん？阿部ちゃんわかる？」
視界に入り込む様に立ち上がって、顔を覗き込む。
でも。
阿部ちゃんは、一筋涙を流して再び目を閉じてしまった。
途端に強くなるアラーム音。
ついに限界を迎えた彼の身体。
「23時27分——————」
深澤「…っ、ふぅ…あべちゃ、ん…」
まだ、手を握り続けていれば暖かさを取り戻すのではないかと、そう、思わないとやっていけなかった。
阿部「ねぇふっか泣き過ぎ！」
深澤「だってぇ…っ、」
阿部「ほら、周りの人めっちゃこっち見てるから！もう〜…」
いつだかに映画を見に行って、俺がボロ泣きした時のことを、ふと思い出した。
あの時は阿部ちゃんがハンカチで俺の涙を拭ってくれて、あったかい手で背中をさすって泣き止むまで付き合ってくれたけど。
今、ぼろぼろと溢れる俺の涙を拭ってくれる人も、背中をさすってくれる人もいない。
多分限界まで待ってくれてはいたと思うんだけど。
時間がきたのか看護師さんたちがきて、そっと俺の手を阿部ちゃんから離す。
それからどうしていたのかは覚えていない。
気づくと既に日が登っていて、泣き過ぎた俺は頭が痛くなっていた。
ここからは、俺のできることはない。
身寄りのない阿部ちゃんは、自治体によって手続きが進められることは事前に説明されていた。
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作者名：みお | 作成日時：2023年2月17日 21時
