Snow Dome 2（雑多短編集） (ページ49)

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目黒side

阿部『ごめん、ごめんなさい…』

目黒『ごめんなさいは終わり。手、痺れたりしてない？』

阿部『う、ん…だいじょうぶ』

目黒『ん。何回でも言うけど、少しでも不安になったり苦しくなったら俺のこと起こしていいからね。お願いだから、切っちゃう前におしえて』

昔からあったという自傷癖。俺と出会った頃は落ち着いてたみたいだけど、ここ一年でまた衝動が強くなってきてしまったらしい。

薄く、皮膚を切ってる時は気づけなかった。

少し左手が動かしづらそうな日があって心配していたらどんどん服に血が染み出してきて。それでやっと気づいた。

しかもその後皮膚科で縫うほどの傷だって知って。さらに深くてもテーピングを強く巻いて無理やり皮膚をくっつけていた経験があるかもって傷をみた皮膚科の人が言ってた。

手が痺れるのも神経近くまでいってるからって。

精神科を紹介されてその日は帰った。

それからも何度か浅い傷は俺が処置をすることがあるたび阿部ちゃんは苦しそうで。

本人の意思の弱さとは関係ないから。依存行為に繋がらないように支援していくしかないらしい。

それからだんだん行為が落ち着いてきて、いた。

そう見えていただけなのだろうか。

阿部「離してっ、やだ、むり、おねがい」

目黒「だめ。ねぇ阿部ちゃん落ち着いて」

阿部「おねがい今日だけっ…むり、ゃ、やだ、」

完全にパニック状態の阿部ちゃんは手から落ちたカッターに向かって手を伸ばす。

“お願い、切りたい”

後ろからはがいじめにするような体勢に心が痛むけど、どうしようもない。

阿部「離して！」

目黒「離さないよ。ゆっくり息して、大丈夫だから」

カッターは諦めたのか自分の左手に爪をたてて掻きだす手も止めて。タイミングを見て正面から抱きしめるようにして顔を俺の胸におさめる。

俺からすれば小さな身体で座り込んだ阿部ちゃんを押さえ込むのは簡単で。

どれくらい時間がたったか分からないけれど、阿部ちゃんに移すように俺が深呼吸を繰り返していたら段々呼吸が落ち着いてきて、ぎゅっと俺の背中に手を回してパーカーを強く握った。

目黒「ちょっと落ち着いた？」

阿部「っ、」

ふるふると無言で首を振る阿部ちゃんはさらに強く俺のパーカーを握る。

それでも理性が戻ってきて自分で心を落ち着けようと必死だから。トントンと子どもをあやすように背中を叩いたり揺れてみたりしているうちに自分から埋めていた顔を離した。