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岩本side
翔太の腕を引いて進んだ先はリビングの前のホワイトボード。
今日は誰がいるよっていうのが分かるように、各職員に割り振られた色の磁石の横にひらがなで名札と同じ名前が書いてある。
文字が読める人もいれば色の識別で覚えてくれてる人もいるし、なるべくみんなに分かるように。
阿部はそのホワイトボードの名前の部分をトントンと指で叩いた後、ゆっくりとなぞるように指を動かした。
阿部「ひ、ー、く、ん…し、よ…」
そうか、こうやって誰がいるか確認して来てくれたんだ。
俺の名前は読めたけど、翔太は色を確認して来てくれたのかな。
渡辺「一緒にやろっか」
そっと阿部の指に手を重ねて、しょうた、と字をなぞりつつ一緒に読んでる阿部は楽しそう。
読み終えて翔太に褒められたのち、へへっと笑った阿部。
さて部屋に戻ろうかというところで「ぐしゅん、」と盛大なくしゃみをした。
岩本「ごめん、寒かったね。お部屋でパジャマ着替えよう」
ここからは翔太に変わって俺と部屋まで戻る。
パジャマを着替えるところまでは良かったけど、シーツがいつもと違うことが気になるみたいでベッドの横に座り込んで手でさすって感触を確かめていた。
岩本「もうげぇしないかな」
シーツをさする横で聞いてみるけど、これに対する返答はない。というか、この施設で生活する人たちのほとんどが事前に察知が難しい。
本当に前触れもなく吐いてけろっとしてることなんて多々ある。
阿部「んー、くふぅ」
今度はぽんぽんと数回叩くとやっとベッドに上がった。
何かを探すようにキョロキョロ見渡すけど、多分お探しの毛布は吐瀉物をモロに受けてたから今はない。
岩本「阿部の毛布は今お洗濯してるからひーくんが待ってるよ。明日には阿部に返すからね」
ゆっくり手を握ってそう言えば、ふむ、なんて言いそうな顔でこくこく頷いてくれたあとにベッドに横になった。
今日本当に、吐いたとは思えないくらい機嫌がいいな。阿部は普段泣いちゃうことも多いけど。
岩本「電気消すね」
自分でそーっと布団をかけた阿部を確認して、部屋をいつもの寝るときの暗さにする。
ベッドの近くに寄って、目を瞑ってくださーいって寝るのを促すまでがいつもの流れ。
阿部「…ひぃ、く、ん」
岩本「はーい、ひーくんです」
ぽつりと呟いて、そのまま吸い込まれるように自分で目を閉じた。
グループホームの、真夜中の出来事。
——————fin
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作者名：みお | 作成日時：2023年2月17日 21時
