. ページ46
渡辺side
今晩はひかると夜勤。
もうそろそろみんなの部屋をまわって様子を見に行くかという時にガラッと扉が開いてひかるが声を上げた。
そこにいたのはなぜかパジャマを脱いだタンクトップ姿の阿部ちゃんで。
阿部ちゃんは知的障害だけじゃなくて、発達障害とか色々複雑に絡み合ってるが故になかなか1人での生活が難しくてこの施設にいる。
学校の職業訓練も合わなかったみたいでなかなかまだ就労に漕ぎ着けられてない。
渡辺「阿部ちゃん、あーって翔太にお口見せて」
少し俺より背の高い阿部ちゃんを洗面所の椅子に座らせて様子を見ると、吐いちゃったので間違いなさそう。
渡辺「あ、阿部ちゃーん座ってください」
ここまで頑張って「助けて」って教えに来てくれたもんね。
本人の集中力は限界なのか、少しそわそわと落ち着きがなくなってきたから早めに口の中だけでもスッキリさせてあげたい。
渡辺「阿部ちゃん、うがいするよ。お口の中に水を入れて、べーって出してね」
阿部ちゃんのうがいの成功率はやっと50%くらい。
それもぐじゅぐじゅっていうのはできなくて、口に水を含んで飲み込まずに吐き出すだけ。
うがいって結構難しくて、飲み込んじゃう子が多い。
コップを持つ手を支えながらこぼしてもいいように顎にタオルを当てる。
渡辺「お、上手じゃん。お口の中もう一回翔太に見せて」
今日は無事成功。口の中の汚れはあらかた取れたから歯磨きさせて、もう一回うがいを成功させてくれたら完璧。
本人は「もうおわり！」って様子だけど。
渡辺「阿部ちゃん、次は歯磨きしよう。お口まだ気持ち悪いでしょ」
阿部「しょ、た」
渡辺「うん、翔太だよ」
ぽつりと呟いてくれた俺の名前。発語がほぼない阿部ちゃんだけど、最近根気よく佐久間が教えてるおかげで人の名前はぽつぽつと口に出すようになった。
阿部ちゃんの頭を押さえつつ、歯ブラシを噛まれつつも歯磨きを済ませてもう一回うがいチャレンジ。
渡辺「うがい上手にできたじゃん。じょうずじょうず」
パチパチと目の前で手を叩くと、きゃっと声を上げて真似をして阿部ちゃんも手を叩く。
岩本「翔太、やっぱ吐いてた。ベッド周りとかとりあえず片付けたけどいつものシーツじゃないから落ち着かないかも」
渡辺「ありがと、こっちも歯磨きまでしたとこ」
岩本「じゃあ部屋は俺一緒に行くよ」
そんな話をしていると、今度は俺の手をぐいぐい引く阿部ちゃん。まだ何かあるのかな、とひかると着いて行った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 504人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みお | 作成日時：2023年2月17日 21時
