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阿部side
康二がどうしても食べたいという最近できた新しい店に足を踏み入れる。
おしゃれな、静かな雰囲気に康二はうきうきしているようで浮き足立っているけど、ちょっと息が詰まった。
何か話してくれていたけどあんまり頭に入っていなくて、ただひゅっと独特の息苦しさを感じて。
阿部「っごめ、ちょっとお手洗い行ってくるね、」
常に持ち歩くようになった少し厚めのタオルハンカチをポケットの中で握りしめて、お手洗いに駆け込む。
扉を開けると直接個室になってるタイプで、後ろ手で鍵を閉めてしゃがみ込んだ。
…新しい店だから、綺麗であることを信じて。
とか言ってるけど、その時はそんなことを考える余裕もなくて。ただタオルで口元を抑えて呼吸を整える。
早く抑えなきゃって焦っていたのかいつもより少し落ち着くのに時間がかかって、タオルが擦れて少し顔が赤くなってて。でも早く康二のところに戻らなきゃって。
康二「あっ、戻ってきた。大丈夫？顔少し赤いで」
亮平「大丈夫、大丈夫。康二何頼むか決まった？」
康二「あ、俺はな、」
結局、いつ呼吸が乱れるかの不安で落ち着けなくて。控えめに頼んだ食事もギリギリ食べ切って。
店を出る前にもう一回危なくてお手洗いに駆け込んで。
はぁ、最悪。康二と純粋に、楽しくご飯を食べたかっただけなのに。
そんなんでこんどは自己嫌悪。
ただでさえ調子が悪いこの頃、ネガティブな感情にどんどん沈み込んで勝手に苦しくなって。
今だってほら…あれ、
康二「っちょ、ほんまに大丈夫？わかる？阿部ちゃん？」
阿部「…ん」
あれ、いま、どこで、えっと、
康二「あるける？腕ひくで、」
なにもおかしくない。みえてるのに、きこえてるのに、自力で立ってるのに。身体が自分のものじゃないみたい。
次に意識が浮上したのは事務所の休憩室だった。
俺はソファに座ってて、視界に俺の顔を覗き込む翔太を捉えた。
渡辺「んー涼太、やばいかも。阿部ちゃん戻ってこない」
宮舘「どうしよ、こういう時ってどこの病院に、」
阿部「…ょた、」
ちゃんと出るはずだった声もうまく出なかったけど、ばっと向き直った翔太が確認するみたいに俺の肩を軽く叩く。
渡辺「阿部ちゃん、わかる？」
焦った翔太の顔。
その瞬間にぶわぁっと頭を駆け巡る色々な記憶。
渡辺「っちょ、阿部ちゃん！？どした、」
阿部「ゃ、ごめんなさっ、」
ガタン、と物が倒れた大きな音で、ぷつりと何かが壊れた気がした。
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作者名：みお | 作成日時：2023年2月17日 21時
