6 ページ24
深澤side
車椅子も綺麗にして、片付けを済ませる。
さっきまではまだ少し泣いてるんだってわかる声がしたけど、今は静か。
保健室の鍵を開けてから、俺もカーテンの中に入る。
顔に押し付けるように毛布を抱いている阿部ちゃんは、いろいろ、たくさん考えているんだろう。
深澤「阿部ちゃん」
声をかけるけど返事がない。
阿部ちゃんはちょっと癖になっちゃってるのか過呼吸になりやすいから、毛布を顔から外して欲しいんだけどな。
深澤「ごめんね、毛布外そっか」
そっと毛布を引くと、案外抵抗はなく顔から離れたので、広げて身体にかける。
俺の座ってる方と反対側に顔を向けてしまった阿部ちゃんだけど、俺はすぐ、気まずいだけじゃないんだって気づいた。
深澤「喉の辺り、赤くなっちゃってるね…」
人にはそれぞれストレスの発散方法がある。
俺だったらゲームだし、人によっては本を読んだり泣ける映画をみたり。
でも、そのストレスをうまく発散できなくて、自分を苦しめちゃう子もいる。
病院で働いてた頃、少し大きい病院だったからいろんな科の病棟で働く機会があって、精神科病棟にいた時もあった。
そこにいる人たちの中には、ストレスを“自傷行為”で発散する人もいて。
阿部ちゃんに喉を押す癖があることは、去年から担任をやっている翔太からも、保護者の人からも聞いていた。
首を絞める行為に近いんだけど、うまく頭に酸素が回らなくなるから、少し苦しいのを抜けると頭がぽわぽわしてくる、らしい。
何がきっかけなのかは本人しか分からないだろうけど、苦しい過程もぽわぽわしてくる感じも、阿部ちゃんにとっては落ち着く行為になってしまったみたい。
深澤「苦しくない？大丈夫？」
阿部「…うん」
深澤「そっか」
そっと柔らかい髪の毛を撫でると、またぽろぽろと涙を溢す。
深澤「今日どうする？保健室いる？」
阿部「…っさくま」
深澤「佐久間？」
阿部「…なんでもない、保健室いる」
深澤「ん、渡辺先生にもそう伝えておくね」
しばらく様子を見ようと阿部ちゃんの横にパソコンを持ってきて作業をする。
俺がいるにも関わらず、たまに喉の辺りを撫でる仕草。
ぐっと力が入りそうなタイミングで、そっと手を離させて手を握る。
深澤「…苦しいでしょ」
阿部「…もう、やだ」
深澤「嫌になっちゃったか」
両手でさするように右手を握る。
確かに温かい、子どもの手なんだけど、どうしようもない苦しい気持ちが伝わってきて。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 504人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みお | 作成日時：2023年2月17日 21時
