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深澤side
目黒が何を考えているのか分からなかったけど、目黒の顔を見て、開けてもいいよって、そう言ってしまった。
俺も目黒について店に降りようと階段を進むけど、見慣れたカウンターが目に入って、足が動かなくなってしまった。
身体のこともあって、あんまりたくさんは立てなかったけど、2人でお店をまわしていた時のことを思い出して。
最初は心配そうな顔で座り込んだ俺を見ていた目黒だったけど、テキパキと店を開ける準備をしていく。
ガリガリとコーヒー豆を削る音、冷蔵庫の開閉の音や、シンクに水が跳ねる音。
あたりまえに毎日過ごしていたお店の音でさえ、たくさんの思い出が詰まっている。
深澤「…めぐろ」
目黒「はい」
深澤「…アーモンドラテ、飲みたい」
目黒「アーモンドラテ、ですか？…ちょっと待ってくださいね」
ほとんど出ないメニューに戸惑ったのか、作り方が載ったファイルを開いて、文字と睨めっこする目黒。
深澤「その、作り方のメモ…」
目黒「メモですか？」
深澤「うん、俺の字じゃないでしょ」
目黒「…そうですね」
2人でたくさん試飲を重ねて、2人で作ったメニュー表。
その後すぐにまた阿部ちゃんは入院してしまったけど、最終的に阿部ちゃんが病床で清書をしてくれて、その時は短期の入院だったから、落ち着いてからこのお店を開いた。
深澤「阿部ちゃん、字が綺麗だよね」
目黒「…はい、綺麗な字ですね」
深澤「阿部ちゃん、いつも俺に言ってたんだよ。何事も当たり前だと思っちゃダメだねって。自分にも言い聞かせるように、ずっと、言ってた…でも、俺はこの家を、あたりまえに阿部ちゃんが帰って来れる家に、したかった、のに」
なんの脈絡もない話を、目黒は真剣に聞いてくれる。
結局、俺は何もしてあげられなかった。
何度も入退院を繰り返す阿部ちゃんを、見ていることしかできなくて、でも、帰ってくる場所だけは、ちゃんと用意してあげたくて。
立ち寄った喫茶店で働く老夫婦を見て、俺もこんなふうに、たくさんの人に愛される場所を作りたいって言うその言葉だけで、2人で、ここまできた。
でも結局、阿部ちゃんはここに帰って来れなくて。
目黒「…ふっかさん、俺は、たぶん、何もできないけど。ここに、帰ってきます。毎日」
深澤「…そう」
しばらくして出てきたアーモンドラテは少し甘くて不思議に思っていると、「マシュマロ浮かべちゃいました」なんて、目黒が悪戯っぽく笑った。
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作者名：みお | 作成日時：2023年2月17日 21時
