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目黒side
ふっかさんから、今から帰るね、という電話だった。
いつも通りを意識してたのか分からないけど、電話越しですら気丈に振る舞っているのが伝わる声だった。
目黒「…おかえりなさい」
深澤「ただいま」
真っ赤に目を腫らしたふっかさんにぎょっとしたけど、無理やりにでも笑うから、俺は何も言えなかった。
ふらふらと向かった先は、自分の部屋ではなく、俺の向かいの部屋。
扉が閉まって、何時間経っても、誰もいないんじゃないかってくらい部屋は静まり返っていて。
ついに俺の気持ちが限界を迎えて、部屋の扉をノックした。
目黒「…ふっかさん、入りますよ」
そっと、扉を開けて様子を窺う。
ふっかさんは、机に突っ伏して眠っている様子だった。
初めて入る部屋。
大きな本棚にはたくさんの小説、図鑑などが並んでいて、この部屋の主人の趣味だったのであろうルービックキューブなども飾られていた。
でも、部屋の一角の異質な空間。
病院で見るような真っ白なリクライニングベッドの周りには、見たことのない機械がすこし並んでいる。
それが、昨日、ふっかさんが帰って来なくて、今日、酷い顔で帰ってきた理由を物語っていた。
どうしたらいいのか分からなくて立ち尽くしていると、「…ぅ」と喉がなる声がして、ふっかさんの身体が起き上がる。
深澤「…めぐ、ろ？」
ふっかさんはぼんやりと俺を見つめた後、何かを思い出したように、部屋を見渡して。
深澤「空き部屋に、なっちゃったなぁ」
そう、小さな声で呟いた。
そして静かに立ち上がって、ベッドの方に危なっかしく歩いて行く。
こんどはベッドに座って、天井を見上げて動かなくなってしまった。
たっぷり、静かな時間があった後。
深澤「…頑張ったね」
そう、呟いて、目を閉じた。
目黒「ふっかさん」
深澤「…ん？」
目黒「今から、お店開けませんか？」
深澤「…俺、もうカウンター立てないかも」
自嘲気味に笑うふっかさん。
でも俺は、それでも店を開けるつもりだった。
目黒「ふっかさんが立ってもいいって思うまで、俺がカウンター立つんで、開けさせて欲しいです」
真っ直ぐ俺を見る目は、生気がなくて、少し怖い。
また、十分過ぎるくらいの静寂があった後。
深澤「…うん、開けようか」
目黒「14時から開けられるように準備しますね」
俺が準備に向かうと、静かに後ろに着いてきて。
でも、階段で立ち止まったと思ったら座り込んでしまった。
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作者名：みお | 作成日時：2023年2月17日 21時
