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渡辺side
阿部「っし、しょ、しょーた」
渡辺「ん？」
はじめて声で名前を呼ばれてドキドキしながら、でも阿部が焦らないように、顔に出さないように頑張って普通に返事をする。
阿部「…っお、お、おひるっ、は、ご、ご、ごめん、なぁさい」
謝ることじゃないとすぐ言いたかったけどまだ阿部が口を動かしていたから、静かに見守る。
阿部「…っお、れ、し、しゃ、しゃべるの…じょーずじゃ、な、なくて…っこーぇが、い、い、いや、で」
そこまで言って、黙って俯いてしまった阿部の手を思わず握って声をかける。
渡辺「別に、謝る事じゃないし…なんていうか、俺のこと嫌いになったわけじゃなくてよかった」
阿部は、そんな事ないと言ってくれているのかぶんぶん首を振る。
渡辺「別に、喋れるの知られたくないなら誰にも言わないし、なんか、困ってる事あるなら頼ってくれてもいいから」
阿部「っと、と…」
言葉に詰まった阿部は、助けを求めるようにふっかのほうをみる。
俺も言葉が出てこないのか何か言いづらいことがあるのか分からなくてふっかをみる。
するとふっかは阿部の考えていることがわかっているらしく、柔らかく笑った。
深澤「自分で言いな。翔太聞いててくれるから」
阿部をみると、ぷくっと頬を膨らましてふっかを睨んでいる…つもりのよう。
深澤「そんな可愛い顔しても、俺は言わないよ」
つんつん、と膨らんだ頬をふっかがつつくとむっとした後、少し下を向いて口を動かし始める。
付き合いたてのカップルのようなやり取りを見せられ、なんとも言えない気持ちになった。
阿部「っし、しょーた」
渡辺「なに？」
こんどは俺がさっき握った手を強く握り返されて。
阿部「っと、と、ともだちで、っいーて、ほ、ほ、ほしぃ」
阿部は顔を真っ赤にしながらも、俺の目をまっすぐ見てそう言った。
渡辺「っ、当たり前じゃん」
きっと過去に色々あったんだろうなって思うけど、そんなことは俺にとってはどうでもよくて、ただ、阿部が安心したように頬を緩ませたのをみて、なんか、あったかい、不思議な気持ちになった。
その後も教室では一言も話さない阿部だったけど、調子の良い日も悪い日もあって一言も声が聞けない日もあったけど、
【今年はふっかと翔太を見に、合唱コン行こうかな】
って見せてきて、俺らはびっくりした。
渡辺「練習、行くかぁ…」
阿部ちゃんが聞いてくれるなら。
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作者名：みお | 作成日時：2023年2月10日 6時
