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深澤side
たぶん、阿部ちゃんは翔太の前でもいつも通り、俺と2人の時のように話すつもりで覚悟を決めていたのだろう。
でも緊張が勝ってしまったのか、うまく声が出せなくて、その状況にさらに焦って…っていうのが分かって、とりあえず2人を部屋に案内した。
ぱぱっと冷蔵庫から飲み物と、棚から適当にお菓子を持って部屋のある2階に上がる。
その間も何も会話はなかったのか、ベッドにもたれて座る阿部ちゃんと並んで座る翔太は同じ方向を向いていた。
深澤「りんごとオレンジ、どっちがいい?」
渡辺「…オレンジ」
阿部ちゃんはリンゴジュースを指差したので、それぞれジュースをコップに注いで、前に置く。
翔太はありがと、とつぶやいて、コップに口をつけた。
阿部ちゃんは、俯いたまま。
俺はそっと、阿部ちゃんに気づかれない様に文を打って、翔太に見せる。
【焦るとさらに話せなくなるから、もし話し始めたら遮らないで最後まで聞いて】
翔太が小さく頷いたのを見て、少し安心した。
阿部ちゃんも、別に翔太が何か言うような人だと思っているわけではないだろう。
でも、あまりにも人と話さない時間が長くて、緊張が解けないんだろうな。
深澤「あ、そういえばさぁ、俺明日の数学の課題、終わってないんだよね」
スクバから、数学のノートと教科書、問題集を取り出す。
深澤「翔太は?」
渡辺「まだ、だけど」
深澤「阿部ちゃん教えてよ」
阿部ちゃんは困ったような表情だけど、問題集を覗き込んで、自分のノートに計算を進めていく。
そのノートを使いながら、筆談でわかりやすく解説まで入れてくれて。
渡辺「うわ、そういうことか〜先生そんな解説してたっけ?」
俺と翔太でやんや言いながら課題を進めていると、阿部ちゃんは少し声をあげて笑った。
だんだんリラックスしてきたみたい。
その後も阿部ちゃん先生、なんて呼びながら課題を手伝ってもらって。
深澤「終わった〜!!!」
渡辺「疲れた…」
1時間ほどで、課題を終えることができた。
それを見て、嬉しそうな阿部ちゃんはゆっくりと口を開く。
阿部「…っおーつかれ、さ、さ、さまでした、っ」
渡辺「…ありがと、阿部のおかげだな」
深澤「いやまじで、俺と翔太だけだったら一生終わんなかったわ」
照れて下を向いた阿部ちゃんは、耳まで真っ赤。
俺と翔太が話していると、顔を上げた阿部ちゃんはぐっとリンゴジュースを一気に飲んで、翔太の方に向き直った。
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作者名:みお | 作成日時:2023年2月10日 6時