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阿部side
翔太に話しているところを見られてしまったお昼以降、小中の嫌な記憶ばっかりぐるぐる頭を駆け巡る。
ふっかもそれに気づいているのか、ずっと俺のそばにいてくれて。
帰りもぱぱっと帰れるように早めに準備を済ませ、帰りの会が終わった瞬間、同じことを考えていたのだろうふっかと逃げるように教室を出た。
でも、もちろん翔太は後ろを追ってきて。
下駄箱のところで捕まり、また嫌な沈黙が続いた。
それを破ったのは、翔太。
渡辺「あのさ、なんか事情があるのはわかるけど、逃げるのだけは辞めてくんね?普通に傷つく」
深澤「…ごめん」
別に、翔太が俺の話し方を馬鹿にしてくるような人だと思っていたわけではないけど、家族とふっかとしか声で話さない期間が長かった俺はどうしたらいいか、分からなかった。
だんだんざわざわしてくる玄関。
【場所、移動したい】
そう、スマホで文字を打って2人に見せると、少し考えるそぶりを見せたふっかは、俺んちでもいい?と聞いてきた。
【迷惑じゃない?】
深澤「迷惑じゃないよ。今日は俺の家8時くらいにならないとみんな帰ってこないから、誰もいない」
【翔太は?遠くない?総武線沿い】
渡辺「大丈夫」
翔太が断るのを少しだけ、心のどこかで期待していたが、迷うことなく答えた翔太を見て、抵抗するのは諦めた。
無言で駅まで向かい、無言で電車に乗り、無言でふっかの家まで歩く。
みんなそれぞれ、どうしたらいいのか考えていたんだと思う。
その時間に、俺は覚悟を決めた。
もし翔太が一緒にいてくれなくなっても、何があってもふっかがいてくれる。
幼稚園からの幼馴染の安心感は、本当に大きかった。
ふっかが玄関を開けてくれて中に入る。
渡辺「お邪魔します」
俺は意を決して、ふっかと2人の時のように声を出そうとした、けど。
阿部「…っ」
深澤「阿部ちゃん?」
靴を脱ぐ前に、俺も、お邪魔しますと言うつもりだった。
でも、なぜか声が出ない。
焦って、動きが止まってしまった俺の顔を心配そうにふっかが覗き込む。
翔太がこっちを見ているのも気づいていた。
さらに焦って、口をぱくぱく動かすが、一向に声が出る気配がない。
どんどん苦しくなってきて、ついに玄関でしゃがみ込んでしまった。
何かに気づいたふっかは、背中をさすりながら目線を合わせてくる。
深澤「無理に喋ろうとしなくていいから。一旦落ち着こう」
ふっかの手から伝わる体温に安心して、なんとか立ち上がった。
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作者名:みお | 作成日時:2023年2月10日 6時