Snow Dome（雑多短編集） (ページ46)

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渡辺side

ギリギリ落ちてしまったテストの再テストは、なんとか1発で合格。

その場で採点してもらう感じだったので、まだ休み時間は15分くらい残っていた。

教室に戻ったけど、ふっかと阿部の姿は見えない。

まだ屋上にいるのかなって思って階段を上がる。

ふっかと阿部がいるだろう日陰になっている部分は死角になっていて、こちらからは見えないけど、微かにふっかの声はするからまだいるんだろう。

あ〜暑いななんて思いながら、そっちに足を進めて、2人の姿が目に入った時だった。

深澤「あ〜眠い！次の授業サボりたいな〜」

阿部「…だ、だ、だぁめだよ…っい、い、いわもとせんせいに、っおーこられちゃう」

深澤「そうだな〜岩本先生怒るとこわそ、う…」

手元でスマホを見てたふっかが顔をあげて、俺と目が合う。

くるりと俺の方をみた阿部も、目を見開いて、驚いた表情。

そしてすぐに、焦ったような表情になる。

いや、驚いてるのはこっちなんだけど…

確かに阿部は、ふっかと“声”で話していた。

ぎこちないけれど、声が出ないと聞いていたので話せていることに驚きを隠せない。

渡辺「…阿部、しゃべれんの？」

今思えば、もう少し気の利いた言葉があったように思うけど、吃音症についても何も知らなかった当時の俺は、その言葉しか出てこなかった。

深澤「あっ…えーと、」

嫌な沈黙が続く。

みんな、どうしていいか分からなかったんだろう。

授業5分前のチャイムが鳴ったのをきっかけに、阿部が手元の荷物を素早く片付けて、ふっかも後を追って屋上から逃げるようにいなくなってしまった。

ぽつり、屋上に残された俺はまだ状況を理解できていなくて。

次の授業は岩本先生の体育だったんだけど、俺は、ふっかと阿部に距離を取られていることにすぐに気がついた。

そういうまどろっこしいのは嫌で、でもどうしたらいいか分からなくて。

誰かに相談しようにも、阿部が話せるということはなんとなく誰にも言わない方がいいことだけは分かってたから、どうしていいか、分からなかった。

6時間目を終え、帰りの会も終えて、バラバラとみんなが帰る準備を始めた時。

逃げるように教室を出て行った阿部とふっか。

俺もそれは予想してたから、走って後を追いかけた。

渡辺「おい、おい待てって、ねぇ！」

下駄箱で靴を履き替えているところで追いついて、ふっかの腕を引くと、困ったような表情で振り返った。