Snow Dome（雑多短編集） (ページ45)

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深澤side

中学までは学区制度があったから、私立受験とかしない限り小学校からほとんどの生徒は近くの中学校に上がる。

そこではもう一言も喋らない阿部ちゃんのことについて、噂はすぐに広まって。

無理やり声を出させようとする奴らや、喋れよって圧をかける奴らが出てきて、阿部ちゃんは学校に来なくなった。

自分の無力さが嫌になったけど、守らなきゃって、その思いはどんどん強くなって。

色々な理由をつけて、ほぼ毎日阿部ちゃんの家に上がらせてもらって。

中学2年生のとき、誰も同じ学校の人がいない、少し遠くの高校を受験するって聞いて、必死こいて俺も勉強した。

阿部ちゃんに教えてもらったり、学校の先生をしている阿部ちゃんのお母さんも手伝ってくれて。

なんとか同じ高校に入学できて、しかも同じクラス。

阿部ちゃんのことは心因性失語症っていうふうに通すって聞いてたから、クラスでそのことが伝えられたときもなるべく阿部ちゃんの近くにいて。

みんなが、自分が話せないと思っていることに安心したのか筆談とかを使って他の子とコミュニケーションを取る阿部ちゃんも見れてすごく安心した。

俺は渡辺翔太ってやつと気が合ってよく喋るようになって、俺と阿部ちゃんが割と一緒にいるからか、だんだん翔太も一緒に行動するようになった。

そうなると、阿部ちゃんは一言も話さない。

スマホとかを使って翔太と阿部ちゃんもだんだん打ち解けてはいったけど、やっぱり声を出すことはなかった。

その当時から3人で屋上でお弁当を食べるのが日課になっていたが、夏休み前、少し暑くなってきた7月、その日は翔太が再テストの関係で早めにお弁当を切り上げ、屋上は俺と阿部ちゃんの2人になった。

深澤「暑いね…そろそろ屋上しんどい時期だな〜明日とか体育館裏の日陰行ってみる？」

阿部「…っうん、い、いーってみる」

屋上にも日影があってそこで食べてはいるけどあんまりスペースないし。

深澤「あ〜眠い！次の授業サボりたいな〜」

阿部「…だ、だ、だぁめだよ…っい、い、いわもとせんせいに、っおーこられちゃう」

深澤「そうだな〜岩本先生怒るとこわそ、う…」

いつのまに、そんなに時間が経っていたのかわからない。

でも、あの瞬間は死ぬほど心臓がドキドキして、どうしようって、俺もパニックになってたと思う。

阿部ちゃんごしの、俺の視線の先には翔太の姿。

俺の視線を追うように後ろを向いた阿部ちゃんも、固まってしまった。