Snow Dome（雑多短編集） (ページ43)

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話して、聞いてページ43

岩本照(29):2-A、渡辺・阿部のクラスの担任。

深澤辰哉(17):阿部の幼馴染。2-D。

渡辺翔太(16):深澤・阿部とは1年次のクラスが一緒。2-A。

阿部亮平(16):4歳の頃吃音症を発症。声を出すのは家族と深澤・渡辺の前だけ。

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岩本side

放課後、どの教室からも歌声が聞こえる。

もうすぐ合唱コンクールがあるため、どのクラスも練習に励んでいるのだ。

うちの学校の合唱コンクールは、他の学校に比べて早く、6月。

時期が早いのは色々な中学校から来る一年生のクラスの交流を早くから作りたいとかなんとか…だった気がする。

高校生にもなると、合唱コンクールで担任の出る幕はない。

職員室に行こうと階段を降りていると、1人の男子生徒の後ろ姿を捉えた。

どの学年もほとんどの生徒はまだ教室なのと、見慣れた後ろ姿で、すぐに誰だかわかった。

岩本「阿部」

名前を呼ぶと、足を止めてくるっとこっちを見る。

校則をきっちり守った制服の着こなしときちんと教材を持って帰っているのだろう少し重たそうなスクバから、真面目な生徒だってどの先生も見たら分かる。

そんな真面目な阿部は、合唱コンクールの練習をサボっているわけではなかった。

岩本「もう帰る？」

こくん、と頷く。

岩本「気をつけてね。もし何かあれば、俺でも、誰でもいいからいうんだよ」

またこくん、と頷いてぺこりと頭を下げる。

俺は阿部が顔を上げたタイミングで手を振った。

にこっと笑って、また前を向いて歩き出す。

阿部は心因性失語症と聞いていて、去年の担任だった先生からも、一言も声を聞いてないと引き継がれていた。

いつから、とかあんまり詳しいことはわからないけど、慣れた筆談や身振りから、長いこと話していないのだろうということがわかる。

合唱コンクールの時期はみんなの歌声をきくのがしんどいのか、朝もギリギリに来て、休み時間もどこかへ行ってしまうし、帰りも早い。

何か抱え込んでいないといいけど、と俺はかなり心配している。

去年は合唱コンの本番も、その直前も少し休んだと聞いていたから。

俺もどうにか話とか聞いてあげたいんだけど、阿部から一線を引かれていることにも気づいていて、なんとかならないもんかな…と頭を抱えていた。