Snow Dome（雑多短編集） (ページ40)

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阿部side

あ、具合悪いかも、と思った。

体育終わりの6時間目。

もう動いていると暑いのか、教室に充満するみんなが使った制汗剤の匂い。

だんだん気持ち悪くなってきて、本当は机に突っ伏したりしたら楽なんだろうけど、俺にその体制は厳しい。

なるべく匂いを嗅がないように持っていたハンカチで鼻の辺りを押さえて、ゆっくりと息をする。

授業も全然頭に入ってこなくて、窓の外を見て必死で匂いから意識を逸らした。

チャイムと同時にやっと終わった授業。

保健室に行くか悩んだけど、もう帰りの会だけだし、渡辺先生来ちゃったし、ハンカチを持った手が片方塞がっているので、車椅子を動かせない。

帰りの支度も何もせず、また窓の外を眺めていると、渡辺先生がこっちに来た。

渡辺「阿部、気持ち悪い？」

なんで分かったんだろ、と思いつつ、小さく頷く。

渡辺「ちょっと揺れるけど、我慢しろよ。限界だったらここ吐いていいから」

コンビニのビニール袋を渡され、車椅子が動く。

周りを気にしている余裕なんてなくて、気づいたら保健室の前。

渡辺「ふっか〜」

深澤「だから学校でふっかって呼ぶなって言って…阿部ちゃん？」

渡辺「気持ち悪いみたい、原因はわかんないけど、6時間目から我慢してたっぽい」

深澤「おっけー了解。見とくから、教室戻っていいよ。帰りの会あるでしょ」

渡辺「おう…阿部、終わったら様子見にくるからな」

喋る余裕もなくて、また頷くだけ。

ガラガラと扉が閉まると、ふっかが心配そうにしたから顔を覗き込んでくる。

深澤「吐いたほうが楽になるかもだけど…どう、吐けそう？」

なるべく吐きたくない、けど、このまま吐き気が治るとも思えない。

ふっかは窓を開けて換気、車椅子を窓の近くまで寄せて、袋が被さった容器を渡してくる。

そして、パチンと手袋をしたのを確認して、あ、吐かせるつもりだ、と分かった。

多分俺の心の葛藤なんて丸見えなんだろう。

深澤「ごめんね、ちょっと嫌な感触するよ」

そっと口元のハンカチを剥がされ、ふっかの左手は優しく俺の頭の後ろに添えられる。

深澤「ちょっとでいいから口開けられる？」

俺は諦めて本当にちょっと、口を開くとふっかの指が口の中に入ってくる。

そのまま舌を押されて、グッと体の中のものが上がってくるのが分かった。

阿部「…っうえ…ごほっ」

深澤「全部出しちゃおうね、大丈夫だから」

汚れていないふっかの左手は、優しく俺の背中を撫でる。