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岩本side
佐久間先生のところに向かった阿部を見送って、ふと、ふっか先生に以前阿部のことを伝えられた時のことを思い出していた。
忘れもしないあの日以来、大きく調子は崩していないらしく、というか、崩す前に佐久間先生に自分で連絡したり、今日みたいにカウンセリングルームに向かえるようになったみたい。
「遅くなるかも」と言われてはいたが、今日は帰って来ないんじゃないかってくらい、阿部が帰ってくる気配がなくて。
不安になって、阿部がいつも使う“お部屋”の方へ自然と足が向いていた。
でも、何かお話し中だったらどうしよう。
そう思うと、部屋の前まで来たのに入れずにいた。
ぐずぐず悩んでいると、ガラッと目の前の扉が開いて、佐久間先生が驚いた顔でこっちをみる。
佐久間「うぉ、びっくりしたぁ！」
岩本「阿部が、あまりにも戻ってこないから心配になって…」
佐久間「今やっと落ち着いたとこ。今は眠ってるから、夕食までに間に合うかな〜って感じかな」
岩本「そう、ですか…」
それに安心したのも束の間、今度は佐久間先生の手元が気になる。
視線に気づいたのか、佐久間先生は俺をカウンセリングルームに招き入れ、手に持っていたものを見せてくれた。
それは、たくさんの、たぶんクレヨンで真っ赤に塗られた画用紙。
佐久間「赤ってさ、なんか怖いよね」
佐久間先生が徐に口を開く。
佐久間「俺はこういう立場上、自分の身体を傷つけちゃう子たちをたくさん見てきた。だから、赤を見ると、真っ先に血を連想しちゃって怖くなる」
なんて言ったらいいかわからなくて黙っている俺に、佐久間先生は笑いかける。
佐久間「でもね、阿部ちゃんは、赤が安心する色みたい。ずっと、こんなにたくさんの画用紙を赤で染めて、心を落ち着かせてる。」
岩本「安心する色…」
佐久間「うん、でもね、阿部ちゃんが自分を傷つけるよりはいいかなって思うんだ。もし、阿部ちゃんが血を連想して赤が安心するって言っても、そうなんだって、受け入れて、その気持ちと共存していくしかない」
岩本「阿部は、」
いつ、安心できるんですか、って
でもきっと、俺じゃ無理なんだって思う。
佐久間「阿部ちゃんは難しい子だけど、よく笑うし、楽しい感情がないわけじゃない。だから、そんな不安気な顔しないで」
佐久間先生はそう言って優しく微笑む。
お友達でいてくれればいい。
そんなふっか先生の言葉を思い出した。
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作者名：みお | 作成日時：2023年2月10日 6時
