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阿部side
車椅子を押されて、身体が揺れる。
ついた部屋は、馴染みのある、小児科のカウンセリングルーム。
本当は俺はもう成人病棟なんだけど、こっちの部屋の方が馴染みがあるし、落ち着くし、というのをふっか先生も気づいてるんだろう。
主治医がふっか先生なのをいいことに、俺はこっちの部屋を使わせてもらうことが多い。
深澤「横になる?」
阿部「…ん」
深澤「わかった、ちょっとごめんね」
俺の両脇にふっか先生は腕を通し、背中に手を回す。
自分の足の力も使って、ベッドに座り、そこからは自分で足を上げて、上半身はふっか先生がゆっくりとベッドに倒してくれた。
そして、右手に感じる体温。
だんだんと気持ちが落ち着いてきて、ゆっくりと息ができるようになった。
深澤「今は夏休み?」
阿部「…うん」
深澤「昨日、寝落ちちゃった?メールなかったみたいだね」
阿部「…ごめんなさい」
怒ってるかな、と思ったけどふっか先生はそういう意味じゃないよ、と優しくお腹をぽんぽんしてくれる。
深澤「調子悪かった?」
阿部「…わかんない、」
深澤「そかそか。ちょっとずつ、疲れが溜まってっちゃったのかもね」
決して調子がいいわけでもなかったんだけど、眠れてたし、ご飯も食べれてて。
だから、こんなに調子を崩した自分に、びっくりしている。
深澤「夏休み、宿題いっぱい出た?」
阿部「…でた、けど、もう、ない」
深澤「終わったってこと?」
阿部「…うん」
深澤「はやいね」
そう言われて、壁に掛かっているカレンダーに目を向ける。
夏休みに入って、2週間。
することもなかった俺は、毎日宿題に向き合っていた。
深澤「おやすみ、なにしていいかわかんなかった?」
阿部「…うん」
深澤「そっか。それで、色々考えちゃった?」
ふっか先生の言葉で、なるほど、と思った。
確かに最近、することがなくぼぉっと部屋にいた俺は、廊下から聞こえる話し声や、音に敏感になっていたかもしれない。
そして、生徒会に入ったり、成績が前期トップだったりして、名前が一人歩きしているのにも気がついていた。
拙い言葉で、それをふっか先生に伝える。
ふっか先生は、心配そうに俺を見つめた後、柔らかい笑顔に戻って、頑張ったね、と頭を撫でてくれた。
深澤「調子悪いって気づいて、寮の、落ち着くお部屋自分で行けたんだもんね?えらいよ」
その言葉で、ハッと思い出す、彼の顔。
どうしよう、どうしようと、頭がいっぱいになった。
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作者名:みお | 作成日時:2023年2月10日 6時