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岩本side
岩本「阿部、今日は佐久間先生のとこ？」
阿部「うん、だから、遅くなるかも」
岩本「わかった」
同室の阿部亮平。俺とは正反対だなと思った。
体は細いし、運動も苦手ではないみたいだけど、あんまりやりたくないみたい。
成績は常にトップで、勉強がおちつく、とか訳の分からないことを言っている。
生徒会にも、学校の先生からの推薦があって入ったらしく、本人はあまり乗り気ではなさそうだったけど、断りきれなかったように見えた。
ふわふわした雰囲気を纏った、表情豊かな優しいやつ。
特別仲がいいか、と言われるとそうでもないけど、同室として問題ないくらいには話したり、行動を共にしたりしていた。
そんな阿部の、知らない一面をみた、あの日。
高校1年生の、夏休み。
俺は部活には入ってなかったけど、ランニングに行ったり、ジムに行ったり。もちろん、友達と遊びに行ったりもしていた。
それに反して阿部は、むしろ夏休みに入って寮から出たのか？ってくらい、ずっと部屋にいる。
その日も、朝ごはんの前にひとっ走りしてくるか〜と思って準備をしていた。
すると、いつのまに起きたのか、ベッドから足を下ろして、座っている阿部が目に入る。
岩本「おはよう」
阿部「…」
普段、寝起きが悪いわけでもない阿部だけど、ぼんやりしているのか返事がない。
体調でも悪いのかな、と思って顔を覗き込むと、静かに涙を流していた。
岩本「え、阿部？どした？」
それでも、返事がない。
岩本「具合悪い？どっか痛い？」
虚だった目が、ぱちっと開いた。
阿部「あれっ、ひかる？おはよう」
岩本「お、はよう…」
突然、何もなかったかのように、今、目が覚めたかのように声を出す阿部に、圧倒されてしまう。
ぐるっと阿部は部屋を見渡して、最後に顔を袖で拭って、袖が濡れたのを見ると、ハッとした表情になり、きょろきょろと忙しなく視線が動くようになった。
阿部「あ、ごめん…俺なんかやった？大丈夫？」
岩本「や、なんか、気づいたらここ座ってて、泣いてたから…びっくりして…」
阿部「なんも、ない？俺、叩いたりしなかった？」
何をそんなに心配しているのか分からないけれど、何もなかった、と伝えると、安心したように視線を上げた。
何も状況が理解できていない俺を置いて、阿部は立ち上がる。
阿部「ちょっと、出てくるね。心配かけてごめん。大丈夫だから」
こんなに安心感のない大丈夫は始めてだった。
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作者名：みお | 作成日時：2023年2月10日 6時
