Snow Dome（雑多短編集） (ページ16)

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佐久間side

今日は一段と、落ち着くのに時間がかかったな。

カウンセリングルームにある、簡易ベッドに横になっている阿部ちゃんの額にはじんわりと汗が滲んでいて、たまに、少し苦しそうに唸る。

俺は、真っ赤に染まった阿部ちゃんの手を温かいタオルで拭っていく。

阿部ちゃんは、人一倍繊細な子。

物の音や感触に敏感だったり、もちろん、人の感情にも。

昔からそういう傾向はあったと思うんだけど、はっきりとしたことは誰にもわからない。

なぜなら、阿部ちゃんは虐待が原因で保護されてるから。

きっかけは、小学校に上がる前の検診。

保育園にも、幼稚園にも通っていなかった阿部ちゃんだけど、もちろん小学校からは義務教育だから、通う通わないの自由…とかそういうのは一旦置いておいて、ほとんどの人は必ず通う。

だから、小学校学区内の子どもにはその学校での検診が義務付けられてて。

その検診にも全く顔を出さないことから、色々な調査が入って、阿部ちゃんの虐待が発覚したみたい。

その後は親戚の家に引き取られたみたいだけど、そこでもうまく愛情を受け取れなかったのか、貰えなかったのか。

小学校2年生の時に学校内で癇癪を起こし、机に頭を打ちつけるような行為があって、精神科の受診に繋がった。

しばらくの入院が決まった矢先、今度は親戚と連絡が取れなくなった。

そして施設での保護になったんだけど、阿部ちゃんの精神状態は落ち着かず、むしろ悪化していくばかりで、入退院を繰り返した。

そんな状況で施設の子とも、職員とも、いい関係を築けるはずがなく。

結果だけ言えば、小学校5年生から中学2年生までは入院、中学3年の一年だけ施設からの保健室登校。

でも、その間に、わかったことがある。

阿部ちゃんの逃げ道。

一つ目は、勉強。

成績がいいと褒められるし、結果が見ればわかる感じとか、数字ではっきり出るところが楽しいらしい。あと、勉強している時は、他のことが頭から出ていくから楽だとも言っていた。

しかも、地頭がいいのか満足に勉強できている環境ではなかったのに、入院期間の院内学級と保健室登校の間にかなり周りとの差を縮めたどころか、全寮制の高校に成績トップで入学。

その頃にはだいぶ精神状況も安定してきてて、笑顔で過ごせる時間が増えていた。

でも、もう一つの逃げ道。

これが、少し…いや、かなり厄介だった。