第五話 ページ6
初めてのカウンター席に緊張しながら、少しずつお酒を流していく。そもそも、こんな店に入るのも初めてだ。
太宰さんが勧めてくるのはどれも強いお酒で、あからさまに私を酔わせようとしていた。勿論私には断ることは出来ず、琥珀色の其をゆっくりと身体に与えていた。コップを空けるとすぐに注がれてしまうから、なるべく一杯に時間を費やした。
太宰さんの喋り声が、うつらうつらとテーブルにぶつかりそうになっている私の耳に聞こえてきた。
誰かいるのかとそちらを向くと、いつの間に、太宰さんを挟んだ向こう側に、二人の男が座っていた。
「じゃあ、その方が例の」
「そうそう。あ、起きたんだ」
まだ寝てはないです。と言おうとしたが、上手く舌がまわらずに、なにかむにゃむにゃという変な言語になっていた。
「こっちが織田作で、あっちが安吾」
「随分雑な紹介をどうもありがとう」
手前に座る、気のよさそうな赤髪の男性が織田作之助さん。どうやら皆から織田作と呼ばれているらしい。
奥にいる丸眼鏡の人は、坂口安吾さん。一見手厳しそうだけれど、よくよく見てみると垂れ目で愛嬌がある。
「で、この子が恋人の暮木Aちゃん」
「…私って、恋人なんですか…?」
「うんそうだよ。知らなかった?じゃあ今から恋人ね。」
はい契約。と小指に小指を絡ませて指切りをした。「おぉ、よく解らんがおめでとう。」
「織田作さん。今のツッコむ所です。」
何処かズレているけど、三人は本当に気心の知れた良い友人なんだなと感じ取れた。
男三人の話は所謂隠語を用いたもので、私は大人しく酒を飲むしか無かった。
「すみませんね、暮木さん。つまらないでしょう。」
「…いえ。私も男同士の友人関係にいちいち首を突っ込むほど、野暮な女ではありません。どうぞ楽しんでいてください。お心遣い、どうもありがとうございます。」
程々に酒が回り、普段より饒舌にまくし立てた。
そうですか。と私に一瞥した安吾さんは、太宰さんの顔を見て、貴方にしては良い方を見つけましたね。と言った。
そんな事はないだろう。私で良いなら、今までの人間が大概だっただけに違いない。そう、こんな私が、太宰さんの恋人だなんて。あり得ない。
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作者名:シリカゲル x他1人 | 作成日時:2016年7月15日 2時