オタク、喪う。 ページ27
山の麓までもう少し。
氷川さんと私は、凄い速さで山を降りていた。
後ろから、景虎がついてきているのかすら、分からない。
ただ、2人とも馬鹿みたいにボロボロ泣いて駆け下りた。
風が冷たい。裸足で走っていたため、石や枝に当たって、あちこちから血が出ている。
氷川さんに捕まれた腕が痛い。
山の全てが、私たちの敵のように感じた。
そして、突然ピタリと氷川さんが走るのを止めた。
驚いて、スピードを落としきれずにそのまま背中にぶつかる。背中から、鉄の匂いと味がした。
そこは崖に近く、下には川が通っている。
だが、とてもそこから降りて助かるような高さでも、川の流れでもない。
パラパラと石が落ちていく音が聞こえた。
「ひ、かわさん....?」
繋がれた腕の力が解けて、そのまま降りて手のひらを握る。
氷川さんの手のひらは血と汗で湿っていて、指先は心配になるほど冷たかった。
顔をあげる。何、どうしたの。はやく、早く逃げなければ、景虎が....。
目はとっくに暗闇に慣れており、氷川さんの顔の様子を捉えることができた。
その顔を見て、心臓が握りつぶされたかのような感覚に陥った。
どうして。
氷川さんは視線を私より後ろに向けて、淡々と言葉を紡ぐ。
「ごめんね。結局、最後まで呼吸の型、教えてあげられなかったね。」
どうしてそんな口ぶりで話す。
「ああ、でも...。こんな女が考え出した呼吸なんて忘れてしまった方がいいよ。Aならきっと、本来の形の水の呼吸だって使いこなせる。」
どうしてそんな諦めた顔で前を見据える。
「忘れてしまって、私のことなんて。私は、鬼殺隊の裏切り者で、永遠に許されない罪を犯した。.....なのに、そんな私と同じ呼吸なんて使っていたら、貴方に被害が及んでしまう。」
待って。待って。まってよ、氷川さん。
「どうか全てが終わった後で笑って忘れてちょうだい。馬鹿な女だったって。肉欲に溺れた、醜い醜女だったって。」
ねえ、その視線の先に。いるんでしょ。私の、後ろに。
「愚かな女でごめんなさい。」
私の手が引かれて、氷川さんの背中の後ろに投げ出された。
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Stella.Ms.an - うう、 (2022年6月28日 19時) (レス) @page36 id: 44b715b917 (このIDを非表示/違反報告)
Stella.Ms.an - アッ、すみません取り乱してしまいましたいまのはわすれてくれますよねそうですよねニッコリ (2022年6月28日 19時) (レス) @page36 id: 44b715b917 (このIDを非表示/違反報告)
マイケル(プロフ) - はるさん» ありがとうございます!のんびりとですが更新していきますので、どうぞお付き合いください。景虎には醜く退場して貰うつもりなので、お楽しみに! (2020年3月21日 0時) (レス) id: ab4a955ce1 (このIDを非表示/違反報告)
マイケル(プロフ) - 雨傘さん» コメントありがとうございます!じょ、女装?!でも顔は普通に男前なので、似合ってしまいそうなのが更に腹立たしいところですね....!! (2020年3月21日 0時) (レス) id: ab4a955ce1 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - 更新頑張って下さい!そして景虎さんに悪の撤退を! (2020年3月14日 16時) (レス) id: de479982fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:シレア | 作成日時:2019年7月22日 22時