俺の胸倉を掴んでくれ (ページ6)

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力戦奮闘ページ6

side 紫

Aと初めて会った時のことは今でも覚えてる。
照がマンションを紹介してくれて、管理人さんの娘さんと知り合いだから紹介するよって言われたんだ。

整った顔立ちで、上品なベージュのワンピースにクリーム色のハイヒール。
こんな子を見たら、大抵の人の第一印象は ” 可愛いな ” とか ” 綺麗だな ” になるんだろうけど、『初めまして。』って微笑むAを見た瞬間の俺の第一印象は “ 秘密の多そうな子 ” だった。

そしてその予想は大的中。
Aは全然自分を見せてくれない。

ある時、興味本位で「Aちゃんは彼氏いるの？」って聞いたことがあった。

『どっちだと思いますか？』
楽しそうに笑うAを見て、俺は直感で “ あ、いないな ” って感じたから「いないと思う。」って答えた。

でもAの答えは『内緒です。』
その一言だけだった。

その他もそう。
なんか疲れてそうだなって時に「大丈夫？」って心配しても『大丈夫だよ。』って返されて。

道でたまたま見かけた時、手に食い込むほどの重い袋を持ってたから「家まで持つよ。」って言っても『大丈夫、右手の運動だから。』って躱されて。

出かけようって誘えば来てくれるし、嬉しそうに笑ってくれるのに、甘いムードなりかかると一気に身を翻す。

いつ好きになったかなんて正直分かんない。

最初は自分を見せてくれないから、それを見せて欲しいっていう探究心だと思ってた。
ミステリアスな上に美人ときたもんだから、脳が誤作動を起こしたんだって思ってた。

でもいつからか一緒にいると堪らなく触れたくなって、俺じゃなきゃ見逃しちゃうような些細な翳りを見つけた時、心臓が痛みを起こして。

俺には見せてくれない自然な笑顔で幸せそうに葡萄を頬張るAにドキっとした自分に気づいた時、これは恋なんだって認めるしかなかった。

…