俺の胸倉を掴んでくれ (ページ43)

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わたしを必死に見つめて懇願する彼への反抗心が、わたしにあんなことを言わせた。

“ 抱いて ”

貴方は心底驚いた顔をしてたよね。
それはそうだよね。わたしにとっても意図せず衝動的に出た言葉だった。

本当は涙なんか流したくなかった。
わたしはこういう時の涙が大嫌いだから。
自分が傷ついてると実感するしそうで、誰かが傷ついてると実感させられそうで。

衝動的な言葉ではあったけど、これで良かったのかもしれないね。
永遠に付かず離れずのこの距離感を続けられる訳ない。
二人のこれからをはっきりさせる良い引き金になった気がする。

貴方はわたしの素を見ても飽きないでいてくれる？
貴方を追いかけるような女になっても飽きないで傍にいてくれる？

……貴方が好きになったわたしじゃなくても、貴方はわたしを愛してくれるの？

彼の目をじっと見つめる。
“ 抱いて ” あの言葉は絶対に取り消さない。そんな気持ちを込めて。

「………わかった。」

彼は苦く辛そうな顔で承諾した。

だけど今だけはその顔を見ないふりする。

だってこれはわたしにとっての大勝負だから。

決戦初夜は今夜。
戦いはどのくらい続くんだろう？

『じゃあ帰ろう？』

「………うん。…場所は？俺が決めていいの？」

“ え？今日なの？” とかそんな抵抗は一切なくて、彼は物分かりがいいみたい。
それにこういう状況に慣れているのか、彼の言葉は表情よりも淡々としている。

そして、それを “ 嫌だな ” って思うぐらいにはわたしは彼に惹かれてしまっているらしい。

『わたしの家以外ならどこでもいいよ。』

今日が嫌な思い出になった時、自分のベッドを見る度に思い出すことだけは避けたい。

「じゃあ俺ん家ね。」

『…ホテルとかでもいいよ？』

ホテルなら良くも悪くも思い出しにくいはず。

「やだ。」

たった二文字の言葉に強い意思が宿ってるみたい。
普段ヘラヘラしてる彼からは想像つかないぐらい低くて力強い声。

わたし達はこれからどうなるのかな？

恋愛関係は上手にいかなくて、でも身体の相性だけはすごく良かったら、身体だけの関係になるのかな。

意味もなくそんなどうでもいいことを考えながら歩いた。

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